「水中メガネ」 | 吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

東京都武蔵野市吉祥寺でアンティーク時計の修理、販売をしています。店内には時計修理工房を併設し、分解掃除のみならず、オリジナル時計製作や部品製作なども行っています。

 

ゴソゴソゴソ、、、「ない!、、、あれー、、やっぱりない!」

 

いくらひっくり返してみても、押入れの中から引っ張り出したズタ袋の中に、水中メガネは入っていなかった。

 

おかしいなー、、一緒に入れてた筈なんだけどなぁ。

 

「お母さん、水中メガネ知らないかなー? 押し入れに入れてたやつ」

 

 

今から40年以上前の夏休み、中学生だった私は、翌日海に行こうとしていた。

 

幼いころから海と魚が好きだった私は、夏になると水中メガネとスノーケルに足ひれを引っ張り出して磯遊びをしに行っていたのだが、、その日はどういう訳か水中メガネがみつからなかった。

 

「弱ったなぁ、、。 どうしても明日行きたいんだけどなぁ。」

 

「そこの森田さんのところに売ってんじゃないの?」 とオフクロ。

 

「森田スポーツ店なんかにはメガネ売ってないよ。 それにこんな時間じゃもうやってないし。」

 

「しょーがないねー。 あんたはいっつもギリギリになってそういうこというんだから。 あー、でも確か自動車教習所の近くに潜水のお店があったね。 そこに行ってみる?」

 

「潜水の店か! へェ、やってるといいなぁー。」 

 

 

府中街道に入ってブリジストンの工場を過ぎ、旧青梅街道を右に折れて国分寺線の踏切を越える。

 

自動車教習所の電気はとうに消えていて、辺りは暗い。

 

「確かこのへんだったけどねー。 ああ、やってるね!」

 

コンビニなどまだない頃だし、だからそもそも周りに店などない。

 

でもその薄暗い通りの一カ所だけ、ポツンと灯りのついたその店はあった。

 

 

「シーマン サービス」 と書かれた安っぽい看板。

 

でもガラスのドアの奥には水中メガネや足ひれ、ボンベや水中銃なんかが見えて、、、ちょっと緊張した。

 

オフクロの陰に隠れるようにして店内に入った私。

※(自分ではそんなこともなかったような気がするのだが、当時店主だったYさんは今でも私の昔話しをする時に笑いながらそういうのだ。)

 

自分からは何も言えず、壁に掛った数々の水中写真やダイビングの機材に見とれていると、、、「海潜ったことあるー?」

 

30過ぎくらいの店主が話し掛けてきた。

 

 

真っ黒なゴツゴツの顔。 二の腕が異様に盛り上がったポパイのような腕。 いかにも四六時中海に潜っているといった感じの容貌。

 

「あー、素潜りやんの。 だったら絶対これね。 ガラスんところが大きいのは深く潜れないから。 うちの母ちゃんなんかこれで、そこのほら、電信柱より深く潜るよ。」

 

外の電柱を指さしながら説明する店主に私と母は圧倒され、気が付けば私の顔には水中メガネ、足にはブーツと足ひれ。

 

終いには店の真ん中でパンツ一丁にされて、、、ウエットスーツの採寸が始まっていた。

 

 

「そんなに好きなら、いつでも潜りに来ていいよ。 毎週行ってっから。 ねぇお母さん、中学生だからお金はいらないけど、その代わりお客さんのタンクや機材運んだりして手伝えばいいよ。」

 

そんな風に言われて有頂天になった私を見ながら、母はどう思ったであろうか?

 

オーダーメイドのウエットスーツまで入れると結構な出費になるから、1人息子が喜んでいるとはいえ心中は複雑だったろうけど、、。

 

 

いずれにせよ、それ以降の私の人生において、これほど大きな出会いはなかったと思う。

 

大学入学と同時に 「シーマンサービス」 でアルバイトを始めた私はその後間もなく退学し、Yさんの提案でフィリピン、インドネシアで一年ずつダイブガイドをやった後、アメリカの西海岸に渡った。

 

そしてそこでひょんなことからアンティーク時計に出会い、帰国して数年後にはアンティーク屋になった訳だ。

 

 

「でも本当に不思議だね。 あの中島君が時計屋やってんだもんなー。」

 

80近くなった悠々自適のYさんは、今でも感慨深そうにそう言う。

 

私自身、30年経った今でも自分で時計屋になった気がしていないのが正直なところ。

 

 

あの日押入れの中でみつからなかった水中メガネは、一体どこに行ったのか?

 

絶対にズタ袋に入れていた筈なのに、、。

 

もしあの時それがあったなら、母が私を 「潜水屋」 に連れていくことはなかった。 

 

どういう訳だか、水中メガネがアンティーク時計に繋がっている。

 

神様は、余程イタズラ好きなのか。

 

 

 

追伸 

私事ですが、来週一杯夏休みをいただき、潜りに行ってきます。

パスタイムは普段通りに営業しておりますので、御用の方は是非ともお立ち寄り下さい。

 

 

 

 

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