「自己再生」 | 吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

東京都武蔵野市吉祥寺でアンティーク時計の修理、販売をしています。店内には時計修理工房を併設し、分解掃除のみならず、オリジナル時計製作や部品製作なども行っています。

 

去年の10月に製作し、今年の3月まで使っていた赤銅・黒染めのカスタムウォッチ。

 

製作直後は真っ黒のツヤツヤだったけど、半年近くハードに使ったら擦れたところの被膜がとれてところどころ赤銅の地色(赤みのある金色)が露出。

 

何百年も前に作られた工芸品のような古色が出てこれはこれで面白いなと思い、このブログでもご紹介した。

「赤銅カスタム腕時計」その後

 

 

そのカスタムウォッチに搭載されていたのは100年ほど前のスイス製アガシのムーブメントだったのだが、こちらはまた別の文字盤、ケースを試すためにケースから取り出し、赤銅ケースは一旦空っぽの状態に。

 

そのまま引き出しの中に保管した。

 

それから約4ヶ月少々経過。

 

 

「こんにちは」

 

「あらあら、どうもいらっしゃい。 」

 

今週のはじめ、お馴染みさんのOさんが定期整備の件でご来店された。

 

時計をお預りしつつしばらくお話しをしているうち、カスタムウォッチの製作の話題に。

 

Oさんは以前にも個性的なカスタムウォッチを何本か作られているのだが、どうやら現在は赤銅ケースでのオーダーにご興味がある様子。

 

 

「Oさん。 是非やって下さいよ。 あれ、ビンテージのジーンズみたいに色落ちして面白いですからね。 寺田くん、あの赤銅ケース持って来て。」

 

そんな感じで寺田が引き出しから出してきたケースを受け取ると、、、「あれ?!」

 

かなり擦れた感じになっていた筈のケースが、黒く戻っている。

 

「ん? これ、染め直した?」

 

辻本に聞くが、奴は何もしていないと言う。

 

 

気のせいか?、、いや、そんなことはない。

 

「どれー、どれー。」

 

作業の手を止めた岩田も出てきた。

 

「お、これ元に戻ってますよ。 リューズの頭なんか金色になってたのに、、。 キズミで見ると、結構深いキズの中まで黒く染まってるし! ありえねぇー!」

 

テーブルを囲んでやんややんやと騒いでいる私達の中で、、Oさんだけはキョトンとしている。

 

擦れて古色がついた時のケースを見ていないのだから、無理もない。

 

実際、時計を身に着けていた私自身も、狐につままれたような気がしたのだ。

 

 

黒染め・赤銅の 「自己再生」 に関しては、以前にもお話ししたことがあったかもしれない。

 

そもそもこの日本の 「伝統工芸技法」 をうちに持ち込んだのは、12年ほど前まで5年ほど在籍していた彫金師のS(愛称 タマちゃん)だった。

 

うちに来る前、ある師匠について和彫りをやっていたタマちゃんが、赤銅の黒染めを文字盤に試したのが最初。

 

製作過程を端でみていると、金色の赤銅板を輪切りにしたダイコンで擦ったり変な匂いのする薬剤を入れた鍋の中で煮込んだり、、、工芸というよりは料理をしているような感じ。

 

ちなみに赤銅は純銅を数パーセントの純金で割った合金だが、入れる純金の量によって染まった黒色の濃さ、色味が変わる。

 

その手法は本にも書いてあるしネットで検索することも容易だが、、、実際にやってみると下準備に少しでも不手際があると染ムラができる神経質な仕事で、完全なレシピ―(?)が確立されるまではタマちゃんも結構苦労していた。

 

そしてそのレシピ―は辻本に引き継がれ、今、うちで活き続けているのだ。

 

 

ある時、文字盤を煮ているタマちゃんに私は聞いた。

 

「タマちゃんさー。 これ何十年経っても剥がれたり薄れたりしないよな? もしそうだったら、あとで困るからなー。」

 

その時彼は、自信満々に言ったのだ。

 

「大丈夫です。 鎌倉時代の細工物は今でも真っ黒に残っていますから。 それにもし何かで擦れたとしても、コイツ、また自分で黒く戻るらしいですよ」

 

「ん?? 自分で黒く戻るって? ハハハ! んなこたーねーだろー?!」

 

馬鹿にした私の言葉に、、、彼はちょっとだけ悲しそうな顔をして作業を続けた。

 

元々物静かで柔和なタマチャンは、ムッとしても食って掛かるようなところがなかったのだ。

 

 

削れて取れた被膜が、一定時間で自己再生する。

 

動物の細胞じゃあるまいしそんな馬鹿な、と思うが、、本当に戻る。

 

何百年も経った刀装具などが今でも黒々しているのは、もしかしてその作用かも?

 

黒染めの赤銅。

 

考えれば考えるほど不思議な素材だ。

 

 

5年の留学を終えてイタリアから帰国して結婚、二児の父になったタマちゃんから、今月、故郷の岩手で新しいジュエリー工房をオープンしたと知らせが来た。

 

どうやら軌道に乗っている様子で、一安心。

 

今度会った時、、、あの時の事謝らなきゃいけないな。

 

 

 

 

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