「秒針」 | 吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

東京都武蔵野市吉祥寺でアンティーク時計の修理、販売をしています。店内には時計修理工房を併設し、分解掃除のみならず、オリジナル時計製作や部品製作なども行っています。


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8時過ぎに目醒めて掛け布団を直し、ドタドタと階段を降りる。

 

「おはよ」 「おはよー」 「おはよう」

 

居間にはかみさんと受験生の長女。

 

中学生の次女はもう学校に行っていた。

 

前日、前々日に続く午前様で、次女とはしばらく顔を合わせていない。

 

 

湯沸かしポットのスイッチを入れ、台所で洗い物をしているかみさんの脇でコーヒーを淹れる。

 

淹れる、といってもフィルターに入ったインスタント式のコーヒーで、家でも店でも同じやつだが、、。

 

外に出て、デッキで朝の一服。

 

まあここまでは、いつもと変わらない朝だ。

 

 

ちょっと違うのは、2人の空気。

 

いつもと較べて口数が少ないというか、、何となくカタいというか。

 

「いやー、ゆうべ飲んでた居酒屋に変なおっさんがいてさー。 イタリア人と日本人の混血だっていうんだけど、コイツがやたらにからんできてさー。 そんでもって、」

 

「ねぇねぇ、、、のんきだねー。」

 

「ん、 なんだ ?」

 

「合格発表、今日だよー。 朝から2人ともソワソワしてんのにさー。」

 

「そっか! 確か金曜だって言ってたな。 そうか、それでシュンとしてんのか。」

 

「シュンとなんかしてないよ! まだ落ちたわけじゃないのに!!」 

 

長女が、イラ立った口調で突っかかってきた。

 

 

「3時に発表だから、分かったらラインするね」

 

そう言うかみさんの声を聞きながら、家を出て駅に向かう。

 

そうか、今日の3時か。 

 

言われてはじめて、こっちもちょっとソワソワしてきた。

 

長女は3つの学校を受験したのだが、今日発表になるのはそのうち一番可能性があると言われた1校で、、、つまり今日の発表がダメだとなると、かなり厳しい状況になるらしい。

 

そっかー。 今日、受かってるといいけどなー。

 

 

「おはよー」 「おはようございます」

 

店に入り、金庫から精度試験の時計を取り出して作業台へ。

 

4秒進み。 2秒進み。 おっとこいつは5秒遅れてるかー、、。

 

10点以上の時計の時間を見ながら必要なものに再調整を加え、最後に全部、秒針を電波時計に合わせ直す。

 

いつも通りの一日の始まり。

 

 

でも時折、ふっと思い出す。

 

あ、受かってるといいけどなー、、。

 

発表まで、あと3時間か、、。

 

 

時計の針を、38年前に戻してみる。

 

38年を秒になおすと、60(秒)×60(分)×24(時間)×365(日)×38(年)、、。

 

11億9千8百36万8千秒前の私は、一人、沖縄の那覇にいた。


 

共通一次試験の結果は、「合格ライン」 の判定だった。

 

琉球大学の2次試験は面接のみだし、まあ問題はなさそう。

 

校舎に続く赤土の歩道をのぼり、面接会場に入った。

 

 

「東京には沢山大学がありますね。 でも君はどうして琉球大学を受験したんですか?」

 

言い方はどうだったか? でもそういう主旨の質問だったのは、はっきり覚えている。

 

「海が好きなんです。 去年の夏も、石垣島の民宿でアルバイトしてました。 将来は、沖縄で漁師をやりたいと思ってます。 大学にいる間に、そのための準備をするつもりです。」

 

 

思っていることを得意になって話しているうち、、、正面の試験官の先生の顔が曇った。

 

確か試験官は3人だったが、、両端の先生も首を傾げるような、不思議そうな顔をしている。

 

まずい。 なんだか印象が良くないみたいだ!  

 

「もちろん合格したら、勉強も一生懸命頑張るつもりです」

 

慌ててそう言いなおし、部屋から退出。

 

学校を後にした私は船着き場の消し波ブロックに腰かけ、海人(うみんちゅう)になる自分を思い描いていたのだった。

 

 

今考えてみれば、落ちて当然。

 

あまりに子供だった。

 

「沖縄で漁師になったら、沖縄の海しか潜れないじゃんか。 でもうちを手伝えば、世界中の海に潜れるぞ。 大学に行かせてくれるというならこっちでいけばいいよ。 」

 

一年の浪人を余儀なくされた私は、ダイビングショップの社長の勧めで海人の路線を変更し、翌年、東京で受験したのだった。、

 

 

あれから38年。 

 

秒針が11億9千8百36万8千秒進んだのちの私は、、、何故か時計屋をやっている。

 

そして時計をいじりながら、娘の合格発表を気にしているのだ。

 

 

 

 

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