「独立秒針の時計」 | 吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

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東京都武蔵野市吉祥寺でアンティーク時計の修理、販売をしています。店内には時計修理工房を併設し、分解掃除のみならず、オリジナル時計製作や部品製作なども行っています。


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今週、独立秒針の懐中時計をフルレストアした。

 

「独立秒針の時計」 と言ってもピンと来る方は余程のマニアだけだろうが、、、簡単に言うと、時計本体を動かすゼンマイ、それに続く一連の歯車に加えて、秒針を動かすためだけのゼンマイと歯車を併せ持った時計のこと。

 

その多くは、19世紀の中頃~後期にスイスで作られたものて、パテック フィリップやオーデマ ピゲのように現在残っているメーカーのものもあれば、全く知られていないメーカーの銘、若しくは完全に 「名無しのゴンベー」 のものも多い。

 

 

普通の手巻きの時計は、時計本体のゼンマイや歯車で一分間で一周するように秒針も動かしていて、秒針の目盛りは一秒ずつになっている。

 

それで良ければ通常のシンプルな構造でいい訳だが、、、秒読みを一秒単位ではなく、1/4秒、1/5秒単位までハッキリ読みたい、計測したい、ということになると、話しは一気にややこしくなる。

 

 

 

一つの時計の中に二つの時計を共存させるようなことになるから、歯車の数、ルビーの数ともほぼ倍。

 

時計本体と秒輪列の接続の仕方は大きく分けて2通りあるが、、、今回の時計の場合はガンギ車が2段重ねの歯車になっていて、一方の歯車に秒輪列から動力を受けたプロペラのような4枚の羽が当たり、抜け、当たりを繰り返し、文字盤上で一秒で一周、つまり一秒を1/4ずつ刻むというタイプだ。

 

ちなみに4振動のこの時計は1/4秒の刻みになるが、もう少し後年の5振動のものは1/5秒刻みになる。

 

 

 

過去30年近くの間に、この手の時計には相当数手を入れてきた。

 

中には 「いくつか歯車を作り直さないと稼働しないもの」 から、「分解掃除と天真交換程度で充分に稼働するもの」 まで、アンティーク時計の状態は様々だが、、、一点、ほぼ全ての個体に共通している不具合(不具合と呼ぶべきかどうかは難しいところだが)がある。

 

それは、、、1/4秒刻みの作動を行っている際の秒針の位置と、秒針をストップさせた時の位置のズレ。

 

文字盤の秒サークルには1、2、3、4と数字がふってあるが、大概の場合、運針をストップさせている状態で数字に合わせて秒針を取り付けると、動いている時にはややズレている。

 

反対に、動いている時計に数字にピッタリくるように針を取り付けると、止めた時にややズレて止まる。

 

このズレは、殆ど気にならない程度のものから耐えられないほどズレているものまで色々だが、、、これが最初からピッタリ同じ位置にあるものを手にした憶えがないのだ。

 

 

 

今回の個体も例に漏れず、ズレていた。

 

修復に取り掛かる時には 「ノンビリした人なら気にならない程度かな?」 といった感じだったが、、、やや消耗の見られた天芯やガンギの下ホゾ等を全て交換して組立て、完成。

 

いよい秒針を取り付けると、、、なんだか妙に気になりだした。

 

「んーー、、。」

 

 

 

ちなみに少々口頭では解りにくいが、、、このズレは、2枚重ねの5番車(ガンギ車)のそれぞれの車の回転方向の位置関係、または、2段重ねのプロペラのそれぞれの4枚歯の位置関係、或いはストップレバーの先端とプロペラの一方の歯の位置関係、いずれか、若しくは全てが関連して起こる。

 

仮に、新品の時には秒針の位置にズレがなかったとすると、何故いつの日かこれがズレるようになるのか?

 

例えば、長年動かしているうちにガンギ車のホゾ(軸先)が減って横に倒れ込みプロペラから離れて回転することになれば、歯車にストップ、リリースされていたプロペラのタイミングが変わったり、場合によっては空振りしたりするようになる。

 

もっともこの場合、消耗したガンギ車のホゾを再生してやれば全ては元に戻る理屈だが、、、実際には空振りするようになったプロペラを叩いて歯先を伸ばし、空振りを防ごうとしてあったりするから厄介。

 

4枚の歯車をそれぞれ叩き伸ばしたりすれば長さ、形ともバラバラのプロペラが出来上がり、、、当然、1/4の刻みはズレる。

 

こうなれば、このプロペラ自体を新規に作り直す以外なくなるが、、実際、数年前に持ち込まれた時計でこれをやり、作業する私も、その費用を負担する顧客も、相当に四苦八苦したことがあったのだ。

 

 

 

今回の時計の場合、先述した通り修復前に微妙な秒針のズレは確認出来ていたが、さほど気にならなかった。

 

それにガンギ車の上ホゾが減っていたのが明らかだったから、これを修復することで、ズレが更に解消する可能性、期待もあったのだ。

 

で、天真を新規製作・交換、、、ガンギの上ホゾも入れホゾで完全に再生。

 

その他、2つの香箱のホゾ穴の緩み、その他すべてを処置して組み上げると、時計は言うことなしの絶好調。

 

そしていよいよ文字盤を取り付け、ストップした状態で秒針をセットし、ボタンを押すと、、、あ、ズレる。

 

最初のズレよりは幾分少なくなったが、ほんの僅かにまだズレている。

 

時計が絶好調だけに、、、余計に気になってきた。

 

 

 

一旦時計を分解し、関連した全ての部品の状態を再度確認したが、、、どこも悪くない。

 

顕微鏡で穴のあくほど見てみるも、、、幸か不幸か、、、どこにも消耗した跡、いじった跡がないのだ。

 

もしかすると、この微妙なズレは 「元から」 の可能性もあるか、、?

 

 

しかし、やはりズレているのはどうにも気持ちが悪い。

 

さてさて、どうしてくれようか?

 

ストップレバーの先端を削れば、止めた時の位置は変更できる。

 

2段重ねのプロペラの接続ポストを削っても同様。

 

しかし、そのいずれも無傷でオリジナル状態だから、いじりたくはない。

 

 

 

こうなると、いじるべき部分はただ一つ、2枚重ねのガンギ車の、それぞれの車の回転方向の位置関係。

 

これはプロペラと当たる方の歯車をひねって回すことで位置関係が変わるから、部品を傷めることなく問題解決が可能。

 

しかし、間違いなく最も面倒で、時間の掛かる選択肢だった。

 

ガンギ車の2枚重ねの歯車には位置の目印などないから、微妙に回しては組立て、文字盤、秒針の取り付け、、余計にズレてはまた分解、歯車を回して組立て、取り付け、、そしてまた、、。

 

組立った状態のまま歯車を回せればどんなに楽だか、、。

 

しかし残念ながら危険すぎて、そういう訳にはいかない。

 

 

 

普通の時計のガンギ車なら分解、組立てもそう面倒ではないが、この時計の場合、干渉する部品が多くて一手間も二手間も掛かる。

 

結局、ハッキリした目安のない、全くのトライ&エラーの繰り返しを延々。

 

いい加減に切れそうになりながら、10数回目かのトライで、 「おっっ!」

 

やっと、、、ようやっと完成したのだった。

 

 

 

今回ご紹介しましたLutz Brothers 1/4 ジャンピングセコンド スイス 独立秒針懐中時計の商品詳細は当店HP上にございます。ご興味のある方はご覧くださいませ。

 

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