「回想」 その57 | 吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

東京都武蔵野市吉祥寺でアンティーク時計の修理、販売をしています。店内には時計修理工房を併設し、分解掃除のみならず、オリジナル時計製作や部品製作なども行っています。


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ケースメーカーとの打ち合わせが続く、パスタイムのカスタム腕時計ケースプロジェクト。
 

幸い問題の 『ラグの角度』 に関しては先方が折れてくれ、全てこちらの希望通りの仕様になったが、、こうなると、残るはお金の話し。
 

一体、いくらくらいの総費用になるのか?
 

 

 

打ち合わせをここまで進めた挙げ句、「費用的な問題で諦めます」 というのは、有り得ない。
 

いや、本当に無理な金額だったらそうならざるを得ないのだが、、、それはどうしても避けたい。

 

先方にとってもここまでの労力が水の泡になってしまうし、うちにとっても、何が何でも進めたいプロジェクトなのだ。

 

 

 

見積りの連絡を待つこと、しばし。

 

一週間だったか、、二週間だったか?

 

ようやくメールで届いた見積もりを恐る恐る見ると、、、「なるほどなー、、。」

 

その数字は、、、どうにも出来ないほど高くはないが、、「んー、、まあ、そうだろうなー」 というものだった。

 

 

 

内訳をよくよく見れば、、、ケースの切削加工代金自体は、決して高くない。

 

むしろ要求している内容を考えれば、、、充分に良心的と言える金額。

 

総費用のボリュームを上げているのは、、、「金型」 の製作費用だった。

 

 

 

うちのカスタム腕時計ケースの場合、、、ベゼルと裏蓋(シースルーバック)は、ギザギザのある 「コインエッジ」 。

 

これはビンテージの腕時計風というデザイン上の理由だけでなく、防水仕様のベゼルや裏蓋を、強くねじ込む際にも都合がいいのだ。

 

ちなみに、このコインエッジの部分は旋盤やフライス盤で切削加工するのではなく、あらかじめギザギザの雌型を持った金型を作り、それで銀塊をぶち抜いて作ることになる。

 

もう一点、ギザギザのある、リューズも同様。

 

つまり、このケースを完成させる為には、ベゼル用とリューズ用の2種類の金型が必要になる。

 

先方も、この部分に関してはプレス加工の専門業者に外注する必要があるのだが、、この金型の製作費用のウエイトが、大きいのだ。

 

 

 

そもそも、うちのような小規模なオーダーがどうしても割高になるのは、これが原因。

 

仮に、精密な金型一つを作るのに200万円掛かった場合、ケースを200個作れば、一つあたりに掛かってくる金型のコストは1万円で済むが、、、20個しか作らなかったら、それぞれに、10万円のコストが乗ることになる。

 

それなら、200個、2000個と作ってしまえいいようなもんだが、、、残念ながら、資金力のない私には、それが出来ない。

 

 

 

しばらく頭を悩ませた私は、率直な思いを先方に伝えた。

 

見積もりの金額に関しては、充分に理解、納得していること。

 

本当は、何百個と作って一つ当たりのコストを下げたいが、資金的にそうもいかないこと。

 

諦めるつもりは毛頭無いが、、、何かいい代替策は無いだろうか?、と。

 

 

 

先方は、本当に親身になって、色々考えてくれた。

 

その中で一番可能性があったのは、金型によるプレス加工ではなく、「キャスト」 による製作方法。

 

これは高温で溶かした銀をゴム型に流し込んで作るやり方で、ジュエリーの世界では極めて一般的な方法だ。

 

金型とは比較にならないほど安価で出来るのが、その一番のメリット。

 

実際、以前他社から受けたケースの注文で実績があるということで、その際のサンプルも持って来てくれた。

 

 

 

期待しながら現物を一見すると、、、充分よく出来ているように感じた。

 

しかし、ケースの表面を拡大して見ると、非常に微細な 「ツブツブ」 が確認できる。

 

これはキャスト製法特有の気泡で、表面を研磨して気泡を消しているうちにまた違う所から気泡が現れ、、、厳密に言えば、完全にツルツルにすることは出来ないという。

 

更に、キャストの場合、切削したりプレスしたりした場合と違って、出来上がった品物が、妙に柔らかい。

 

ドロドロに溶かした銀を流し込んで作るのだからそれも頷けるが、これだと、ちょっとぶつけたくらいでラグがフニャと曲がってしまいそうで、心配になる。

 

もう一点、そしてこれも深刻な問題だが、型に流し込んで出来上がった品物は、型よりも僅かに小さくなってしまうという点。

 

厳密な精度の不要なジュエリー等の場合は問題にならないだろうが、、、相当な高精度が不可欠な 「捻じ込みの防水ケース」 では、捻じ込めないケースやネジの緩すぎるケースが出来る可能性があって難しいのではないか。

 

 

 

先方の誠意には感謝しつつも、、、「これはないな。」 と感じた。

 

いくら金がないとは言っても、後々になって後悔するような品物を、作りたくはない。

 

追い込まれた私は、、、いよいよ腹をくくらなければならなくなったのだった。

 

 

 

 

(続く)

 

 

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