「回想」 その52 | 吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

東京都武蔵野市吉祥寺でアンティーク時計の修理、販売をしています。店内には時計修理工房を併設し、分解掃除のみならず、オリジナル時計製作や部品製作なども行っています。


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Sくんが去って、再び3人に戻ったパスタイムには、その後も何人かの研修生がやってきた。
 

中にはどうにか3ヶ月目に入った者もいたが、、採用寸前で、惜しくもリタイヤ。
 

Sくんの一件以来、彼らへの接し方を多少考えるようになったつもりの私だったが、、やはり、まだまだだったのだろうか。
 

相変わらず、スタッフは増えなかった。
 

 

 

そうこうしているうち、更に困ったことが起きた。
 

家庭の事情で埼玉の実家に戻り、2時間の通勤にめげず通い続けていた紅一点のOさんが、、遂に退職せざるを得なくなったのだ。
 

いよいよパスタイムは、私と岩田の二人に逆戻りしてしまった。
 

時折、長女を預けた悦っちゃんが手伝いに来て、何とか凌ぐが、。
 

 

 

そんなある日、おっとりとした感じのSMくんという若者が、店にひょっこり現れた。
 

話を聞くと、彼は岩手県から上京し、渋谷にあるジュエリーの学校を卒業。
 

卒業以降、ある師匠について伝統工芸の彫金を勉強してきたが、、今のご時勢、彫金専門で食っていくのは難しい。
 

そんな折り、学校からの紹介でパスタイムを知り、、時計師の仕事に興味を持ったのだと言う。
 

 

 

持ってきていたいくつかの彫金作品を見せてもらうと、伝統工芸だけに、極めて保守的な紋様のもの。

 

でもとても緻密で、真面目な仕事がしてある。
 

面白いかも、と思った。
 

彫金自体が仕事にならなくても、、、いつかその技が役に立つことはあるかもしれない。
 

それに、これだけ細かい作業を長時間続けられるということは、、、少なくとも時計屋として必要な、根気、忍耐力は備わっているということになる。

 

 

翌日から、SMくんは練習に通ってくることになった。

 

彫金はやっていても時計のことは全く知らないから、それまでの研修生同様に、1からのスタート。

 

決して特別に飲み込みの早いタイプではなかったが、細かい作業には慣れていたし、、それに何時間でもずっと作業に没頭できる根気強さがあった。

 

 

しばらく通い続けていると、SMくんは古株のお客さんから 「タマちゃん」 と呼ばれるように。

 

当時、どういう訳だか一頭のアザラシが多摩川に迷い込んできたことがあってテレビで話題になり、いつしかそのアザラシはタマチャンと呼ばれるようになったのだが、、、お客さん曰く、SMくんのおっとりした顔がそのタマチャンに似ているということらしい。

 

 

 

タマチャンが来るようになってしばらく経ったある日、私は修理の合間をみて、ある腕時計のケースを作り始めた。

 

ケースの中身は、アメリカ製の小さな婦人物の懐中時計のムーブメント(機械)を入れる予定。

 

少し前に東久留米の機械屋さんから時計旋盤より2周りほど大きな年代物の旋盤を引き取ってきていたから、、、早くそれを使ってみたいという気持ちもあったのだ。

 

 

 

力のある旋盤で、ケース本体や、ベゼル、裏蓋を、銀塊から削り出す。

 

何時間かの作業の後に丸い本体部分が出来上がり、機械はピッタリと内蔵できるようになったが、、、最後に待っているのは、バンドの取り付け部分(ラグ)の製作、取り付け。

 

銀の棒材をヤスリで削って4本のラグを形作り、本体にロウ付けする仕事になるが、、、これは100%、完全な手作業。

 

それだけに時間も掛かるし、普段やりつけている時計の部品作りとは勝手が違い、私にとっては、ハッキリ言って面倒臭い仕事だ。

 

しかし、いよいよ面倒を覚悟で手を付け始めたところで、、、ふと気が付いた。  

 

「あ、タマチャン!」

 

 

 

ということで、、面倒臭がりの私は、そこから先を、タマチャンに丸投げ。

 

デザインの希望や段取りを説明すると、嫌がる風もなく、彼は黙々と作業を続ける。

 

ヤスリがけ、整形、研磨、そしてロウ付けした後、再び、最終の研磨仕上げ。

 

タマチャンはそういった作業に明るくて、私が予想したよりも、遥かに上手だった。


 

 

(続く)

 

 

 

 

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