「回想」 その43 | 吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

東京都武蔵野市吉祥寺でアンティーク時計の修理、販売をしています。店内には時計修理工房を併設し、分解掃除のみならず、オリジナル時計製作や部品製作なども行っています。


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重厚なガラスの扉を開いて中に入ると、中はがらんどうだった。
 

ほぼ真四角のスペースは、30坪ほど。
 

1、2階合わせても20坪余りの東村山のジャンクヤードとは、比べ物にならない広さ、使い勝手の良さだ。
 

更に、北側と東側の一面は大きな窓で、それぞれ外側は目隠しのある屋根付きのベランダのようになっているから収納も充分だし、、その上、鉄筋コンクリートのしっかりしたその部屋は、飛んでも跳ねてもびくともしない。
 

トラックが通る度に顕微鏡の視界が揺れる久米川店とは、大違いだった。
 

 

 

「どうですか? これで30万なら賃料も適当だし、悪くないでしょ?」
 

「確かにね。 吉祥寺でこの条件は、滅多にないよ。」
 

YさんやHYさんにそう言われるまでもなく、、、既に私は決めていた。
 

「是非お願いします!!」

 

 

やった!!

 

やっぱりもう一回だけ、と粘ってみて良かったのだ!

 

ヤマキハウジングで申し込みを済ませた私は、その足で東町のジャンクヤードに寄り、店が決まったことを悦ちゃんに報告。
 

その後、嬉々として久米川に飛んで戻り、、、Hさんや岩田だけでなく居合わせたお客さんにまで、吉祥寺に店が見つかったことや、そこがいかに素晴らしい店かということを、夢中になって喋りまくったのだった。

 

 

翌週、ヤマキビル 201号室の正式契約を済ませた私は、、いよいよ大家さんへの退室の通知をしなければいけなくなった。
 

年老いた山尾さん夫妻の顔を思い浮かべると気重になるが、、しかしこればかりは仕方がない。
 

何とかすぐに次が見つかってくれることを祈るしかないが、、。
 

そう思っていたところ、、なんとタイミングのいいことに、知り合いの 「K」 くんが、一階のジャンクヤード跡で輸入雑貨の店をやりたいと言い出した。
 

退出の件と併せてその旨を山尾さんに伝えると、、、「敷金礼金不要、名義だけ変えて、そのまま使って良し」 との返答。
 

結果的に、私にとっても少し気持ちが救われる形の退出になったのだった。

 

 

さてさて、いよいよ次は、お金の用意。
 

ヤマキビルへの移転の流れは、久米川店、吉祥寺店それぞれからの退出、部屋の現状復帰作業、それからヤマキビルへの荷物の移動、開店準備ということになるが、、これは引っ越しや内装、電気工事、看板の設置、それから什器や機材の補充などにざっと500万、新たな商品の追加まで含めると、最終的にはおそらくその倍くらいは掛かりそうな計算。
 

といってもジャンクヤードにそんなお金がある筈も無いから、、気は進まないが、ここは銀行から融資を受けるしかない。
 

幸い、前回受けた融資の返済はちょうど終わるタイミングになっていて、、ちよっと前に自転車で現れた第一勧業銀行(現みずほ銀行)のOさんは 「次もまたお願いしますよー」 と言っていたところだった。
 

 

 

そんなわけで、開店前にオフクロと二人、決算書や印鑑を持って、久米川支店のOさんを訪ねた。

 

いい年をして母親と一緒に?と思われるかもしれないが、、、金勘定の不得意な私は、当時まだオフクロに帳簿を見てもらっていたのだ。
 

 

 

「申し訳ありませんが、、今回の件は、ちょっと難しいですね」
 

通された個室でそう聞いた私は、耳を疑った。
 

「え?、、 何でですか? 」
 

そもそもその日のOさんは、、、最初からいつもの感じと違っていて、どこかよそよそしかったのだ。
 

ついこの間ニコニコしながら 「次もよろしく」 と言っていたのに別人のようになって、、一体どういうことなのか解らない。
 

 

 

「前回お願いした分は、一度も遅れずにお返ししたんですよ!」
 

「ええ、ありがとうございました。 でも、、確かにそうなんですが、、」
 

彼は下を向いたまま、、、苦し気に沈黙している。
 

ここまで全てを前に進めてしまっている以上、私もダメだと言われて 「ハイそうですか」 と、引き下がる訳にはいかない。
 

何しろヤマキビルとは既に契約をかわしているし、久米川店も吉祥寺店ももう退出届けを出していて、、その上、久米川店の一階にはK君が入ることも決まっているのだ。
 

どうやっても 「後戻り」 と言う選択肢は、存在しない。
 

 

 

「分かりました。 どうしても1000万はダメだと言うなら、、前回と同じ500万でもいいです。 それならいいですよね?」
 

足りない分は色々削りまくって、何とかするしかない。
 

そう覚悟した上で譲歩した私だったが、、「いや、、申し訳けございませんが、、今回は、本当に出来ません。」
 

「何でっ?!」
 

さすがに頭に血が昇った。
 

一度の滞りもなく返済したのに、同額の融資すら受け付けない。
 

おまけに彼は、オフクロが持参した決算書だっておざなりにパラパラっと捲っただけで、、ロクに目を通しもしなかったのだ。
 

 

 

「でも、、ちょっといくらなんでもおかしいんじゃないかしらねぇー、。」
 

それまで黙っていたオフクロが不満げにそう言うと、、「少々失礼します」

 

Oさんはそう言って立ち上がり、部屋を出ていった。
 

堪らず、上の人に相談しに行ったのだろうか。
 

 

 

オフクロと2人、、しばしの沈黙。

とりあえず、待つしかない。

 

「んー、、まあ、、金利の分が結構効いてきますからねぇ~。 ははは。」

 

シーンと静まり返った小部屋には、住宅ローンかなんかの話しをしているような隣室の声が、微かに漏れてきていた。

 

 

 

それにしても、ダメだと言う理由は、借入れ金額なのか? 経営状態なのか?

 

大したことのない売り上げだが、毎年少しづつは上昇しているし、、、少なくとも前回借入れをした時よりは遥かに良好な状態の筈だが、、。

 

どうにも分からない、、。


 

 

「中島さん、上と相談しまして、それでは、今回は何とか300万ということで~」
 

私は、戻ってきた彼がそんな風に言わないかと、一縷の望みを繋いでいた。
 

こうなれば、足りるだの足りないだの言っていられない。
 

いくらでもいいから、、せめてヤマキビルの内装工事の分だけでもあれば、、、体裁を整えるのは、開店後少しずつでも何とかなるから、、。
 

 

「失礼します」

 

ノックに続いてドアが開き、Oさんが戻って来た。

 

しかし、きっぱりと決心したようなその顔を見た瞬間、私は諦めた。

 

悪い予感通り、、、彼の口から出てきたのは、さっきまでと全く同じセリフだったのだ。

 

 

 

(続く)

 

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