「回想」 その42 | 吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

東京都武蔵野市吉祥寺でアンティーク時計の修理、販売をしています。店内には時計修理工房を併設し、分解掃除のみならず、オリジナル時計製作や部品製作なども行っています。


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「ヤマキさんのところ? 30の30か?」
 

出てきたお爺ちゃんは、HYさんに何やら確認している。
 

「ええ、、そうですね。」
 

応えるHYさんの表情には、、、弱ったなぁ、というような微かな困惑が。
 

 

 

なんだろう?
 

不思議に思っていると、今度はお爺ちゃんは私の方を向いて、話しを始めた。
 

「失礼ですが、お客さんはまだまだお若いですね。 店の方は少しづつ大きくしたらいかがですか? いや実はね、私もね、そうだったんですよ。 田舎から上京した当初は、本当にお金が無くってね。 リヤカーに畳を乗せては、あちこち売って歩いたもんです。 それからアパートの一室に小さな事務所を持って、少しづつ商売を大きくしていった。 今になって考えるとね、最初から大きな店にしたらとてももたなかったんじゃないかと思いますよ。」
 

 

 

なるほど、、どうやらお爺ちゃんはこの会社の創業者か。
 

確かに、、、畳の行商から始めてこんな立派な自社ビルを持つ会社のオーナーになったとすれば、相当な苦労人であることは想像に難くない。
 

おそらく私のような新参者が店探しに来ると、若さ故の無理をしないよう心配して、ついつい口を出してしまう、といったところだろうか。
 

 

 

「悪いことは言いませんよ。 少々狭くても、駅から遠くても、商売は出来るんだ。 地道に堅実にやっていくのが一番ですから。」
 

横のHYさんを見ると、また始まった、という困りきった表情。
 

やはり若いお客へのこの手のアドバイス(?)は、よくあることのようだ。
 

 

 

私にも、社長さんのいうことは解らなくはない。
 

でも、、私は私で、早く物件を見に行きたかった。
 

「ええ、わかります。 これだけの会社にされたのですから、相当なご苦労をされたんでしょうねぇ」 とか 「私も商売を始めたばかりという訳でもなくて、今年で10年になるんですよ」 などと言いながら抜け出すタイミングを計っていると、、。

 

「社長、、、まあヤマキさんのところにももう話しを通してあるんで、とりあえずちょっと顔出してきますわ」 と、HYさんの助け船。
 

何とか二人して、逃げ出すように店を出たのだった。

 

 

件の物件は、そこから南に向かった、井の頭通り沿いとのことだった。
 

ブカブカとタバコをふかしながら、急ぎ足で歩くHYさんと連れだって歩く。

 

「なんか、面白い社長さんですね」

 

「いやぁ、悪いね、、社長はいつもあれなんだ。 まあ、本当はいい人なんだけどね。」
 

煙を吐きながら笑うHYさんも、私には悪い人には見えなかった。
 

いい物件かもしれない。

 

期待が膨らんだ。

 

 

『山基ビル』 は井の頭通りを南側に渡って、すぐに見える。
 

思っていたより造りの立派なビルだった。
 

その一階部分は 『ヤマキハウジング』 で、やはり不動産や建築設計をやっている店のよう。
 

勝手知ってる、という感じで中に入るHYさんにくっついて、私も中に、、。
 

 

 

「やあやあ、どうも」
 

名刺を出しながら迎えてくれたのは、これまたHYさんとは違った意味で迫力満点の若旦那Yさん。
 

年代こそ私とさほど変わらぬ感じながら、、180センチを裕に越える長身をストライプのスーツでガチッと固め、パンチパーマ、ギョロっっとした鋭い眼光、松崎しげるばりの真っ黒な顔で、、失礼ながら、サングラスでも掛けたら間違いなくその筋の者にしか見えない容貌。
 

「全くHYさんにはまいっちゃうなぁー。 さすがだよね。 うちの真上の物件なのに、他所からお客さん連れてきちゃうんだからさぁ。 うちも結構広告出してんだけどねー。 ハハハ。」
 

冗談混じりにそう言って笑うと、HYさんもまんざらでもない顔で、ニコニコしている。
 

Yさんは一見乱暴な口をきいているようで、、その実ちゃんとお客の前で、間に入った業者の顔を立てているのだ。
 

どうやら、この人も信用出来そうだと思った。

 

 

 

「まあとにかく、上見て下さい。 なかなかいいですよ。」

 

Yさんは机の引き出しから鍵を出すと、私とHYさんを外階段に案内した。

 

幅広のカーブした外階段を上がり、、、その先に続く、重厚なガラスのドア。

 

 

 

鍵を開けているYさんの後ろから中を覗いた瞬間、、、私の心は、決まったようなものだった。

 

 

 

(続く)

 

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