吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

東京都武蔵野市吉祥寺でアンティーク時計の修理、販売をしています。店内には時計修理工房を併設し、分解掃除のみならず、オリジナル時計製作や部品製作なども行っています。


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その焼き鳥屋は、地下鉄改札に向かう降り口、階段の脇にあった。
 

 

「I 」 さん他、三人の仲間と私は焼き鳥のコースを頼み、まずは生ビールで乾杯。
 

「I 」 さんはあっと言うまにジョッキを空けると、お替わりを頼んでからこう言った。
 

 

 

「皆んなー、彼、ジャンクヤードの中島くん。 うちと同じアメリカもののアンティークやってんだ。」
 

「I 」 さんはそんな風にして私を紹介すると、女の子からお替わりのジョッキを受け取り、グイグイ飲みだした。
 

 

 

他の三人は、一人がイギリス物の業者、二人はアンティークバザールを担当しているプランタンの男性社員。
 

イギリス物の方はイギリス人の旦那さんを持つ女性で、、、かつては小学校の先生をしていたという。

 

売り場では話しをしたことがなかったが皆気さくな人達で、、、有難いことに、新入りの私もすぐに輪に入ることが出来た。
 

 

 

しばらくの間、みんなの話は業界の昔話や店のこと、他の百貨店の催事や骨董祭の商売のことが中心で、、、初めて聞く話だらけの私は、もっぱら聞き役。
 

しかし、キリンのジョッキが八海山の升入りグラスに代わり、焼き鳥のコースが出尽くした頃、、、話しは、私の店のことになった。
 

 

 

「売り場でも話したけど、君はアンティーク屋を回ってクラスリング買っ

たりしてんだよな? それはダメだぜ。 クラスリングや時計はアンティーク屋じゃなくて、ポーンショッブ(質屋)に行って買うんだ。 

特にリングなんかは品物になりそうなものを全部まとめて、金の目方(重さ)で買うこと。
現地のアンティーク屋は、そうやって買ったものに一つ一つしっかりした値をつけて、自分のショップで売ってんだ。
今までの君は、そこへ行って買っちゃってる訳。
だからどうしても高いものになる。」
 

なるほど、、、そうか。 

 

私は納得した。
 

「I 」 さんの話しは続く。
 

 

「それから、西海岸で買い付けてるって言ってたけど、それもダメだ。 大都市に行くと、なんでも高くなるからな。 どことは言わないけど、田舎に行って買うんだよ。 それもただの田舎じゃダメだぞ。 かつてはそれなりに栄えていたけど、っていう、歴史のある田舎町じゃなきゃ、良い物は出てこないから。」

「I 」 さんの話しは、いちいち腑に落ちた。
 

自分は、ただ何となく馴染みのあるロサンゼルスに行き、、、フリーマーケットやアンティークショップを回って、気に入ったものを買っていただけ、、。

 

要は、アマチュアとなんら変わりがなかったということか、、。

 

 

 

「今度は君に聞くけど、、、良い物、つまり少々値の張るものを含めていくつか品物があった場合、君ならどういう風に買う?」

 

「I 」 さんの質問に、私はこう答えた。

 

「一つ一つ値段を聞いて、まとめて買うから安くしてくれ、ってやります。」

 

「うん。 まあそれはそれでいいかな。 でもな、俺はこうするよ。 まず、安い方の品物の値段を聞いたら、一切値切らずに、黙って買うんだ。

その後、高い方の、つまり自分が本当に欲しい品物の値段を聞いたら、ちょっとだけ考える。

うーん、、買いたいんだけどちょっと値段が合わないかなーって困ったような顔をしながら、このくらいにしてもらえると買える、と値段を提示する。

大概は、うまくいくよ。

何故なら、コイツは商売になると思ったものは値切らずに買う、つまりプロだなんだってことを最初に刷り込んであるから。

逆に、商売にならなきゃ欲しくても買えない。 じゃ、言ってる値段にしてやるか、ってな。

下手くそな業者は、例えば1000円の安物を一々値切って、900円で10個買うとする。 その時点で向こうには、こんないくらもしないものを一々値切りやがって、っていう気持ちがあるから、、、本当に欲しい10万円の品物も、ぜいぜい一割しか引いてもらえなかったとする。

その場合、全部で¥99000払うことになる。

俺は、1000円の10個は言い値だから¥10000だけど、10万円の商品は2割引きの値段が通れば、全部で¥90000。.

これは、本命の商品が高額になればなるほど、うんと大きな差になるよな。」

 

 

プランタンの担当の2人も、グラスを傾けながらウンウンと頷いて聞いている。

 

八海山のせいか、「I 」 さんの話しはどんどん熱を帯びていった。

 

 

 

「ディスプレーの件もそうだ。 君のところにお客が溜まらないのは何でか分かるか?」

 

「んー、、品物が少ないせいだと思うんですよねー。 アーバンみたいな賑やかさがないから、、。」

 

私もちょっと頭がボーっとしてきている。

 

「うん。 でも本当は、少なければ少ないなりに、やりようはあるんだ。 何よりも、君のディスプレーはあまりにも見易い。 

見易くて、一目でパーッと全部が見えちゃうから、お客様はそこに溜まる必要がないんだよ。」

 

「確かに、出来るだけ綺麗に見えるようにしてるんですけど、、。 それがかえって良くない訳ですか、、。」

 

イギリス物のKさんは、子供を見るような表情で私を見て、ニコニコしている。

 

 

「うん。 こういうところのディスプレーは、ある程度視界を遮った方がいいんだ。 

奥にチラッと見えている商品が良さそうだ、もっとよく見たい。 

その為にはそこに一定時間留まる必要がある。 

一人、二人と、お客様が溜まる。 

それを見た他の人は、なんだろう?と思ってやってくるから、更に人がたかる。

そのうち誰かが買い出す。

そうなると、他の人も欲しいものが買われちゃいけない、と思って、背中を押されるようになる。

同じものが2つとないアンティークの場合、尚更そう。

人間の心理っていうのは、面白いもんだよな。」

 

 

 

そうだったのか、、。

 

どうしても解けなかった疑問が、どんどん紐解かれていった。

 

そんなに色々考えながらやっていたとは、、。

 

自分では同じようにやっているつもりが、、、実は天地の差があったということか、、。

 

 

 

時計の針は、11時を回った。

 

桝にこぼれた八海山をすする 「I 」 さんの話しが、更に買い付けた商品の通関方法や割安な梱包資材の入手先にまで及んだ頃

 

「I さん、何だか今日は随分舌が滑らかねぇ。」

 

イギリス物のKさんが、からかった。
 

担当社員のMさんも、ちょっと驚いた様子で言った。

 

「I さんが、そんな業務機密を同業者に話すの、初めて聞きましたよー。  普段は買い付け先の話しなんかすること絶対ないのに。」
 

 

 

確かに私も、ちょっと不思議に思い始めていたところだった。

 

いくら新入りとは言え、、「I 」さんにとって、商売上のコツとも言える大切な情報を同じ催事に出店している業者に教えるメリットは、、、何もない筈なのだ。

 

しかも、それが八海山のせいと言えるほど、「I 」さんは酔っているように見えなかった、、。

 

 

 

「そうなんだよな。 ホント、俺にもよく分かんないんだけどさー。 

なんか中島君を見てたら、不思議と教えてってもいいかなぁ~、って気になったんだよ。 

俺は初日からレジに行く度に彼のこと見てたんだけど、、、全然お客様いないのに、安物のスーツ着て、Gケースの前でこう手を前に組んで背筋伸ばしてピンと立っててさぁ。

別に、可哀そうっって思った訳じゃないんだぜ。

なんだか分かんないけど、、、なんとなくアンティーク屋らしくない、面白い男だなーっと思っただけなんだ。」

 

「あらっ、安物のスーツなんて失礼しちゃうわよねー?! 変じゃないわよ。 ちゃんと似合ってるわよー」

 

とイギリス物のKさん。

 

「いや、いいんです。 本当に安物ですから。 

スーツなんて持ってなかったんで、、前日に慌てて第三紳士服で買ってきたんですよ」

 

「ハハハ。 でもそれで充分充分。 スーツなんて単なる制服みたいなもんですから。

それより I さん、、本当は中島さん見て、アーバンの野球チームのメンバーにしようなんて下心があったんじゃないんですかー?」

 

担当社員のMさんの助け舟に一同が笑い、ほどなく飲み会はお開きになった。

 

 

 

フラフラしながら混み混みの電車に乗り、東村山を目指す。

 

とても長い一日。

 

しかし 「I 」 さんをはじめ、皆のおかげで孤独感は消え失せた。

 

相変わらずジャンクヤードの現状は深刻だったけど、、、酔いが回った頭で、私は 「何とかなるかなぁ」 と感じ始めていた。

 

 

 

 

(続く)

 

 

 

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