「藪の中」という芥川龍之介の短編小説がある。ある殺人事件の真相について、

7人の証言者が語るのだが、それぞれが食い違った告白をするために、真実が

「藪の中」になってしまう物語だ。

 

 映画「ゆれる」も、観終わった後に何か釈然としない思いが残る物語なのだ。

兄弟と幼なじみの女性・川端智恵子(真木よう子)が渓谷に遊びに行く。弟・

早川猛(オダギリジョー)は吊り橋を渡った後に、近くで写真を撮っていた。

 

 幼なじみの女性が猛を追い、高所恐怖症の兄・早川稔(香川照之)も彼女の

後を追う。その後に吊り橋の上で二人の間にいざこざがあり、女性は橋から転

落してしまう。

 

 最初は事故で処理されたが、勤め先で傷害事件を起こした稔が、警察署内で

吊り橋での他殺を告白して状況が一変する。しかし、稔は法廷では自白を翻し

て無罪を主張し、弟も潔白を信じて兄と一緒に戦おうとする。

 

 二人の間に変化が起こるのは、拘置所での面会だった。カメラマンとして成

功した弟に、自分の不遇を語り、押さえ込んでいた感情を曝け出す兄。「自分

が人殺しの弟になるのが嫌なだけだよ」と挑発する兄に、猛も反発してしまい、

法廷で兄に不利な証言をしてしまう。

 

 猛は本当に吊り橋での他殺を目撃したのか? ただの反発で、兄を刑務所に

入れることができるのか? 様々な「ゆれる」思いが、観客を混乱に陥れる映

画なのだ。