DJ目指す若者を想像してみた 6 | キャベツは芯まで食べられる

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「インディアンは嘘つかない」理由を考える

DJ目指す若者を想像してみた 6

相棒は家賃が払えず、
住んでたアパートを追い出された。
スピーカー(ひとつが子どもぐらいの大きさ)や
ミキサーとターンテーブルが
トラックの荷台に積まれる。
エンジンがかかってトラックが走り去る。
去って行く機材を見送りながら、
メタボな腹を擦り、にっこにこで相棒が言った。
「こうなりゃ金がなければ人脈蓄えるだけだよ、人生さー!」
だから、相棒は、持ってく荷物はレコードだけにした。
たすきがけしたスリングバッグ2個とトローリー(ローラースケートのついたDJバッグ)に、相棒は、
とりあえずレコードを満載していた。
機材がなくてもレコードがあればDJができる、
という訳だ。
DJでバカで、メタボで、無職で、アル中で、そして路上!
相棒、ホント、ヤバすぎる!
それってニッポンの話?

もう、だいぶ前からすでに、
相棒はモテるのを諦めてしまった。
もう、諦めてからどのくらい経つのだろう。
別にデブでチビでブスなわけではないのだが、
何故かすっごい速い段階で諦めてしまった(たぶん中学ぐらい)ように感じる。
テクノ好きな時点で、
諦めなきゃならない。

相棒が落ち込まないのは、
チームワークはすごく大事だからだ。
相棒のいうチームワークは、
「一緒に遊んでいる時は絶対に楽しくいること」だった。

前にちっちゃい店でまわした時、
真剣すぎたオレは、
ついつい、相棒のつなぎの時のビートのズレや、
空気読めない選曲に、
細かく指摘してしまった。
相棒は人一倍繊細だ。
すぐにびびってしまうし。
だから傷ついたらしい。
自信が無くなって、
しばらく何も手につかなかったらしい。
こっちもなんかうつっちゃって、
そんなんで、何回か、店で失敗してしまった。

テクノが好きだと、
それだけになってしまう。
本当は他のジャンルを認められず、
でもおおらかな自分は認めていると思い込んでおり、
他のジャンルが持つ「音楽のチカラ」をみすみす逃してしまう。
だから、世界中に「テクノ村」は広がっている。
「テクノ村」の中では互いに馴れ合うのだが、
同時に自他の比較を「テクノ村」のルールに則り、
分析する。

DJプレイの反省点を
ドライにテクニカルにアドバイスして貰えず、
自分と他人という比較の中で分析する。
しかも、だいたい、
どっこいどっこいだと思う関係の人間から
詳細に違いを言い述べられる。
だから、極端に傷つく。

なぜなら相手も言い過ぎてしまうからだ。
傷つける側にとっても、
敵はたった独りの人間に過ぎず、
それ故、自我の増幅を許し、
客観性を欠いた表現方法をとってしまう。
真実が含まれているから、
傷つくのはひと塩だ。

DJSをチームプレーとすると(例えば、オレと相棒)
相手を敵にするのか、味方にするのか。
音楽を愛する事は、
相手をも味方にする事だ。
そしてクラウドも含めて味方にして、
大きなグルーブを作り上げる。

夏の入道雲だ。

だから、
個人競技の競い合いを恐れる必要はないんだ、相棒!
音楽は本当は、メンバー全員がゴールを目指すサッカーの様に、
チームプレーなんだ!
そして、オレはそんなモテるDJになりたい!
お前だってなれるさ!

「あー、やべ。腹減った。
ユウスケ、牛丼食いに行こーぜ」
腹を掻きながら、相棒は言った。

あ!
臭えッ!
屁したろ、お前!