鏡よ鏡よ鏡さん
世界で一番美しいのは誰? と
白雪姫では魔女が訊いたそうだ



そう
1枚のその鏡は
いったいどのくらいの方々を
知っているのだろう?



今 我が家の玄関先の鏡には
毎日 孫たちが映っている

しかし
これまでには
どれだけの方々が映ったのだろう?

作った方も
備えた方も
訪れた方も
もちろん僕も家族も

鏡の中の自分は
今の自分で
あの頃の自分はもういない

そして
いずれ未来の自分も映り
微笑むのか
悲しむのか
怒るのか
分からないけれども

きっとここでは
無理しても
微笑んでいるのだろう

ここに備えて
35年もが過ぎて
いつも同じ風景が映る中

時折
そこを通り掛かる
誰かがちょいと振り返る

昨日も
今日も

明日も…



いつか
ジョンとヨーコ展へと出掛け
あの手鏡を覗いてみた

もちろん
その一瞬には僕が映り込んで
その手鏡を独占したけれども

次の瞬間には
また違う誰かが
そこに映り込んで微笑んでいる





そこには
いつか
幸せそうに微笑んでいた
ジョンとヨーコが
映っていたはずで

そう思うだけで
感慨深くもなる

鏡は永遠に残るけれども
僕たちは
この姿ごと
消え去ってしまう

時間は止まることなく
先へ先へと急いでいる

僕たちは
わずかにもがいてもみるが
何ひとつ変わることなく
過去は増え続けている

そして
押し寄せる未来に対応出来ず
過去ばかりを振り返ってみる



松山鏡なる落語がある


江戸の頃までは

庶民はまだ

鏡を知らずにいたそうだ


だから

生涯

自分の姿を知ることなく

終えた人生もあったのだろう


ならば

それもまた良しと思えたならば

尚も良し


そんな時代は

競うこともまた

少なかったのかも

しれないけれども…