東欧のとある山にそびえたつ古城には、週末になると自家用セスナで城主がやってくる。

既に世は封建時代にはあらねど、未だ各地に点在する所領からのあがりがあるお貴族さまである。そして、地位や財力の上に運営される企業所得や投資による収益もあるために、優雅なる暮らしぶりだ。
増え続ける資産は、各界にお友だちを増やすのに大いに役立ち、更なる収益を生み出す。



金と暇を持て余している者たちの2代目は、大抵あまりおつむの状態が芳しくないのが世の常である。
更に創意工夫に欠ける彼らは、お決まりの享楽的な遊びにもすぐに飽き果て、程なくスリリングで、時には犯罪にすら手を染めるようになる。

麻薬、人身売買、そしてお手軽な拉致誘拐。
険しい山中ゆえ周辺には人家なく、如何なる乱痴気も騒ぎ洩れ出ることがない安心安全さゆえか、お忍びで非日常求めて各界から訪う者は後を絶えない。
悪い城主はそんな彼らに遊び場所提供し、ついでに隠しカメラで痴態録画などして弱み握り、狭い世間でしか生きられぬ彼らをガチガチに管理しているのである。



…さて、今宵は魔物が集う特別な夜。
客たちをもてなすために城主が調えたのは、勿論山海の珍味に極上の酒ばかりではない。その昔、ルイ15世の寵姫ポンパドゥール候爵夫人が王のために用意したという、鹿の園顔負けの活きのいい少女ばかりを狩り集めたという触込みである。

古代中国で酒池肉林やらかした王たちの行末が如何なるものになったかというと…
何れも悲惨なものばかり。
史記や十八史略なんぞに明るくない欧州セレブたちは、そんなことは知る由もなく、与えられたものに群がり享受するだけの日常なのである。

彼らが何より怖れるものは、退屈のみ…。






夕闇に紛れて飛び立つ蝙蝠ならぬおバカな取巻きたちひき連れて、夜な夜な近くの城や館で繰り広げられる乱痴気騒ぎに出かけては、これまたアタマの軽いお嬢さんたちを誑かしてはお持ち帰りする正体は…
因襲の重みに耐えかねて退廃に走ったニヒルな青年にあらず。

人の弱みを握り、絞れるだけ絞りとった挙句、利用価値失せれば塵芥のように棄て去る、その所業。
快楽のために数多の人弄び殺害に及んだ、エルジュベート・バートリーやジル・ド・レに並ぶ冷酷無比なる吸血鬼として、巷では怖れられているらしい。