パンカーダ夏の特別企画「夏の夜の夢/A Midsummer Night's Dream」
「夏の夜の夢/A Midsummer Night's Dream」。
内容は詳しくなくても、この響きをご存知の方は多いのではないでしょうか。
これは、ウィリアム・シェイクスピアにより1594-1596年頃に発表・上演された喜劇。
「Midsummer Night」とは「夏至」のこと。
The Quarrel of Oberon and Titania by Joseph Noel Paton 1849
(妖精王オーベロンと妖精の女王ターターニアのけんか)
アテネ近郊の森を舞台とし、人間と妖精が入り乱れるこの喜劇には、セリフに多くの植物が登場します。
例えば、パンジーの花の汁を目に塗られた妖精の女王タイターニアが、目覚めてロバ頭のボトムに言うセリフ。
「こんな風にヒルガオと美しいスイカズラとがやさしく絡み合い、このように蔦は、楡の木の荒々しい枝にまとわりつく。ああ、私はあなたを愛している。夢中になって愛している!」
まず、パンジーには恋薬の効能があるといわれてきました。
また、イングランドでは、男性を楡、女性を蔦にたとえる伝統的イメージがあり、そのなかでもスイカズラ/Honeysuckleは樹木にきつく絡みつき、その蜜と芳香で官能的なイメージを強く持っているため、堅く結ばれた不変の愛のシンボルとされています。
"Honeysuckle"by William Clarke Wontner/1857-1930
セリフひとつをとってみても、それぞれの植物に込められた意味が響き合い、知識があればそれだけ深く楽しめるような内容となっています。
ちなみに、アンティーク家具でお馴染みのオークも登場します。
6人の職人が芝居の稽古をするために、夜の森で待ち合わせる場所は「公爵のオーク。」
「The Duke's Oak」と表現された巨大なオークの木です。
「森の王」と呼ばれるオークは精霊が宿る神聖な樹木として特別な存在であり、ケルトのドルイドではオークの森は聖なる地とされていたといいます。
まさに象徴的な場所としてふさわしい貫禄をもつ木といえるでしょう。
The Duke's oak - A Midsummer-Night's Dream
by William Shakespeare, by Arthur Rackham 1908
草木をことのほか愛する英国文化。
偉大な詩人、ウィリアム・シェイクスピアが紡ぎだす言葉の魔術のベースには、幾世代もの間受け継がれてきた植物への深い想いが込められているようです。
The Chandos Portrait
of William Shakespeare
c.1600s
(作者不詳/もしくはJohn Taylor)
この夏、パンカーダでは、アンティーク家具に使われている木材やモチーフの草木について、持つ意味や伝説をより深く皆様にご紹介してゆきます。
妖精の世界と人間の世界が近づく、1年のうちで最も長い昼をもつ夏至の日。
雲の隙間から差し込む光の筋の中に
なかなか暮れない陽に照らされた長く伸びた蒼い木影に
どれだけの人が妖精の姿を感じたのでしょうか。
家具のもつ歴史と共に、材やモチーフにこめられた人々の想いをお届けいたします。
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