修論の執筆が佳境を迎えている。なけなしの脳みそをフル回転させながら、日々少しずつ、一文字一文字と書き進めていく。書いている途中で、あ、これもあそこに書いとかなきゃ、と思い付くことがあり、忘れないうちに別ファイルにメモをしておく。ただでさえ記憶力が衰えているのだから、まれにアタマが冴えているときのヒラメキが、その刹那に消えてしまわないよう、ぬかりなく記録を残していくことが肝要である。
 でも、それより何より大切なのは、残した記録が「飛んで」しまわないよう入念なバックアップ体制をとることだ。入試準備をしている頃、(今振り返れば、誠に稚拙な)研究計画書及び願書を提出して一息ついたとき、ふと思い立って数ヶ月ぶりに外付けHDDにバックアップをした。1週間後にPCが飛んだときは、あのタイミングでバックアップをとった自分は天才か予言師かと思った。

 ちなみにそのPCは、サポートセンターの親切なお姉さんに伴走されての数時間の格闘も虚しく、二度と生き還らなかった。

 だから、社会人大学院の大センパイに「バックアップお忘れなく」とアドバイスされたときは、24時間に1度の外付けHDDへのバックアップに加え、Googleドライブへのバックアップ同期もばっちり。
 …と思っていたのだが。。。
 書いたり消したりしている途中で、昨日の文章のほうがよかったかも、と思いついた。そうだ、バックアップのほうに前日のファイルが残っているかも、と思って、Googleドライブを開いてみると…。そこに並んでいるのは、もう3週間も前のファイルばかり。

 え“。。。 
 どっき~んっ

 心臓が高鳴り、耳の後ろあたりの脳みそから一気に血の気が引く。
 なぜだ、Google!! なんでちゃんとバックアップしてないんだ!?

 Googleをどつきたくなる自分の横で、しかし、冷静なもう一人の自分はGoogleに非がないことを知っている。Googleがこんなケアレスミスをしてたら、今頃は世界が終わっているはずだ。悪いのは私だ。何かやらかしたにちがいない。そういえば、Googleバックアップ設定直後には、PCフォルダー内でよく見かけていた✓印や二重の矢印マークを、最近はとんと見かけていなかったではないか。つまり、この3週間、バックアップが行われていなかったのだ。

 3週間くらい前、何をやらかしたっけ。おかげさまで、毎日修論で鍛えられた脳みその記憶力は存外活性化しているようで、じきに「やらかしたこと」を思い出す。PCのCドライブの容量が少なくなったという警告が出たので、ドキュメントフォルダーをDドライブに移行したのだ。
 Googleドライブのバックアップ設定を見ると、案の定バックアップ対象はCドライブのまま。脳みそへの血液循環が復活し、緊張のあまり固まっていた腹筋がほぐれる。設定し直して、はぁ、これで一件落着だわ。

 …が、誤って「Googleドライブの中身をPCのCドライブにバックアップする」という設定まで入れてしまう。

 ぎえええぇ~っっ 

 これじゃあまたCドライブがいっぱいになっちゃうぢゃないかっ 

 ほっとしたばかりの心臓が再びでんぐり返り、脳みそが固まる。とにかく慌てて、ぐるぐるとファイルコピーをしている(らしき)Googleドライブさんに「中止」命令をかける。

 ほっとして、もう一度Googleドライブを見直す。1年間2,000円の100Gのうち、80%が既に使用済になりつつある。まい。ピクチャーフォルダーのバックアップは止めよう。外付けHDDに二重に入れてあるし。
 Googleドライブの「マイパソコン」上にある「Pictures」フォルダーにカーソルを当て、右クリックで「削除」を押した。とそのとき。
 もっと、決定的に、致命的に、不穏なことが起こった。

                                       ・・・(下)に続く