自分を客観視するためには、仕事中は「舞台の上で演技をしている」と思うこと。
そう思うことを忘れないようにするには、どうしたらいいか。

 

それは、「舞台衣装」を身につけること。

 

私にとって、一番印象深い「舞台衣装」は、腕時計である。
もともと腕時計が好きではなく、赴任先のトロントでマイカー通勤となって電車時刻を気にする必要のない生活になって以来、帰任後もずっと腕時計をしなかった。
今のようにケータイやスマホはなかったが、オフィスはもちろん街中でもどこでも、時計はどこかしらにあり、別に腕にまとわりつかせておかなくても十分コトは足りる。
周りにいる人の腕時計を盗み見るという得意技も、この時期ひそかに習得した。

 

ところが、本社戦略部門に異動になり、社長の鞄持ちをするようになってしばらくしたとき、同僚から苦言を呈された。
「八木さん、時計くらいしたほうがいいんじゃないの?」
分刻みのスケジュールをこなす社長のヨコで、本来は時計とにらめっこしながら次の予定を先回りしてタイムキープ係を務めるのが仕事である。腕時計もせず、社長の腕時計を盗み見るのはいかがなものか。
ということで、数年ぶりに腕時計をつけてみると、左腕がずしりと重い。
言ってみれば、あれは社長スタッフという「役割」の重さであり、私の舞台衣装だった。
だからあの頃、「舞台」の上に立つ必要のない週末は、出掛けるときでも時計はつけなかった。

 

よく「勝負服」とか「勝負ネクタイ」とか言うけれど、あれも一種の「舞台衣装」である。今日は大切なお客さんに会う、重要な会議でプレゼンする。そういうとき気持ちを引きしめるためのツール。
そういう特別なことがなくても、仕事をする、ということ自体、毎日が「勝負」…という言葉、私は苦手なので、「毎日が舞台演技」と言いたい。

 

こうした腕時計や赤いネクタイの効用を、NLP(=Neuro Linguistic Programming、神経言語プログラミング)心理学で「アンカリング」と呼ぶ。
何か具体的なモノや音、あるいは匂いで、以前経験したある感情が喚起された経験は、誰もが持っていると思う(ユーミンの歌で大学時代のデートを思い出すとか)。


この脳の働きを応用したのがアンカリング。自分が活性化させたい感情や心構え・行動をあるモノ(アンカー)と結びつけ、そのモノに触れたときに活性化させるくせをつける。
ちなみに私が通った小学校では、掃除時間に必ずサン・サーンスの「白鳥」が流れた。今でもあの美しいメロディーを聞くと、「掃除しなきゃ」という気分になる。
アンカリング、おそるべし。

 

ということで、ぜひ自分に合った「舞台衣装」を見つけてみてください。