ホントのトコロ 第101話 「一緒だったら」 | ぱきらったわーるど

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~『アラシック』で『サトシック』な『ぱきらった』の妄想わーるど~ 

ポットから上がる湯気で、目の前の景色が一瞬だけ真っ白になる。
その向こうにうっすらと見えるドリッパーの中で、ゆっくりとお湯を含んだコーヒー豆が、徐々にぷっくりと膨らんできて、俺はその姿を可愛らしくすら感じてた。
そこに漂う、幸せな芳しい香り。

ふと視線を横にずらし、そこにいるはずのニノを確認する。

ソファに体育座りしたニノは…
相変わらず、自分の膝に顔を埋めて微動だにしない。


あの時俺は…

ニノとのことを…
色々と考えて…
けど、そんなの結局、堂々巡りになっちゃってるだけで…

ちょっと、ビールを買いにコンビニでも行って、気分を変えようと思ってたところだった。

上階にいたエレベーターが、下がってくるのを待っていた俺の前で、ゆっくりとそのドアが開いていく。
その中にいた人が、前も見ずにこっちに突進してくるのを、マジかよ…って思いながら下がって見てた。
そしたらそれが、どうしてもニノに見えて…。
そんなニノはといえば、俺の存在に全く気付いてないみたいで、そのまま突進をやめようとしなかった。

確信がないまま、恐る恐る名前を呼んだ俺の声に、やっとニノは顔を上げた。
そして、目の前に立ってるのが俺だって、やっとわかったんだろう。
はっと動きを止めて…
そしたらその瞬間、ニノの両眼から大粒の涙が溢れてきて…
そのまま体当たりするみたいに、俺の方に突っ込んで来たかと思ったら、しがみつくみたいに俺の腕を掴んで…
その予想外のニノの行動に、呆気にとられてる俺が居た。

受け止めたニノの身体は、妙に頼りなくて。
今にも崩れ落ちそうな身体を支えるように、取り合えず俺の部屋に来るように促した。
最初は、軽い抵抗をしてたニノも、一人じゃ立ってられなかったんだろう…
俺の言う通りに、部屋の中にあがってくれたんだ…。


膨らみ切ったコーヒーの盛り上がりの中心に、今度は前よりも多めの量のお湯を注ぐ。
ぽたぽたとサーバーに落ちていたコーヒーが、ゆっくり液体になって溜まっていく。
芳しい香りと、自分で作ってる飲み物…みたいな感情が…
俺の心を徐々に落ち着かせて、優しい気持ちにさせてくれる。

きっと、何かがあったっていうのは、このニノの様子からいって明らかだけど…
そこに俺が、踏み込んでいいとは限らないわけで。

結局そこには触れず、サーバーの中のコーヒーを二つのマグカップに均等に注ぎ入れて、その二つを両手に持って、ソファに座るニノの横に座った。

ぴくんと動く、ニノの身体。


「…はい。 コーヒー。」


自分の分をテーブルの上に置いて、ニノの分をその手に持たせるために、自分の両手で支えた。
その冷たい指先が…
いつもとは違う、ニノの様子を表してるみたいだった。

ひっそりと佇む沈黙。
ゆっくりと流れていく時間。

俺は、自分のマグカップをテーブルから持ち上げると、ゆっくりとそれを口に近付けて、中身を少しだけ口に含んだ。
ニノはマグカップを両手で持ったまま…
まだ顔を俯かせたままだ。

どうしようか…。
これ、結構長期戦か…?
けど、ま、いっか…。
これから何かしようとしてたわけでもないし。
ビールを買い損ねたのはあれだけど。
この状況で飲めるほど、俺は神経図太くないし。


「大野さん…」

「…えっ? ん…?」


そんなことを考えていたら、突然ニノの声が横から聞こえてきて、慌てて返事をしたら変な風に声がひっくり返った。
けどそれにはニノの反応はなくて…
いつもなら、「何ですか? その声(笑)」って言って笑うはずなのに。


「ティッシュ… …くれませんか?」

「…あ、え? あ、はいはい。 ティッシュね。」


消え入りそうな声をどうにか理解して、慌ててテーブルの下にあった箱ティッシュを持ち上げて、ニノの目の前に差し出した。
箱ごと受け取るだろうと思っていた俺の読みは見事に外れ、ニノはそこから2,3枚引き抜いて、俯かせた顔を上げることはなかった。
ニノから手渡されたマグカップを、自然と受け取った俺の手から、ニノはそれをまた両手で受け取る。

再び、ゆっくりと流れていく時間。
ニノの両手に包まれたマグカップから、細く湯気が上がっていく。

ここは、何か聞くべきなんだろうか…
って悩む俺と、
ただ黙っていてやるのも優しさかな…
って悩む俺。

ただ…
こんな時間も悪くない。
全然、居心地悪くない。
なんでだろ…
ニノとは、出会ったときからずっとこんな感じで。
気負わせないニノの雰囲気と、それをありがたく素直に受け取る俺。

ニノが俺のことを、どう思ってるのかはわかんないけど…

俺と一緒だったら…
俺と同じようなことを、感じてくれてたらいいのにな…

深刻になりそうな、そんな雰囲気の中。
俺は、呑気にそんなことを思っていた。









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第1話 「なんで俺?」


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第100話 「膿んでいく傷」