今回と次回は、水素分子の基底状態の全電子エネルギーEを求めます。VB法とシンプルLCAO-MO法は、同じハミルトニアンおよび波動方程式を使いますが波動関数が異なります。今回は前々回(6)のVB法で得た波動関数を使います。
このページは積分記号が本格的にたくさん出てきますが、積分値の計算は8PRO積分表より引用します。ゆえに三角関数、指数関数、および対数関数が現れません。分数関数は出てきますが、そのまま残し8PRO積分表より引用します。
このページでは、以下の微分積分の基本操作だけが出てきます。
(i) 演算子
「量子力学は演算子である」というのをよく見掛けます。それほど演算子は量子力学にとって重要なものです。ここでは、微分演算子の左右の入れ替えが不可であることだけ、例を挙げてふれます。
(i-a-1) 常微分演算子の場合は、演算子の左右で入れ替え不可。
(i-a-2) 偏微分演算子の場合も、演算子の左右で入れ替え不可。
(i-b) 演算子が変数[例y]または定数[例a]の場合、演算子の左右で入れ替え可能。
(ii) 積分記号その1:体積要素dτdτは、微小体積または体積素片とも呼ばれます。今回の変数は独立変数であるため特別に次のように分離できます。
(ii-a) 電子軌道関数dτと電子スピン関数dσを分離して積分します。
(ii-d) ここは少し込み入っています。rA1とrB1は電子1の変数。rA2とrB2は電子2の変数。分数関数も電子1と電子2を分離します。そして分数関数は残し、積分表の定積分値を使います。
(ii-e) 変数r12だけは電子1と電子2両方の変数であり分離できません。そのまま残し、積分表の定積分値を使います。
(iii) 積分記号その2:規格化された関数
(iii-a) 電子軌道関数は規格化されているので2乗の積分は1。
(iii-b) 電子スピン関数は規格化されているので2乗の積分は1。
(iv) 積分記号その3:重なり積分S重なり積分は略記号Sで表わし、積分表の定積分値を使います。
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水素分子の全電子エネルギーEを原子価結合法(VB法)で求めていきます。
Eの式で波動関数Ψは規格化されているので分母は次のように1となる。
具体的に電子軌道の波動関数Ψを代入して計算していきます。
前々回の(6)でVB法により基底状態の水素分子の電子軌道の規格化された波動関数Ψは次のように求まりました。
Eの式に、この波動関数Ψを代入します。ここの波動関数Ψは実数関数であるためΨ=Ψ*です。
電子スピン関数は電子軌道関数と分離できるので次のようになります。
さらに電子スピン関数は規格化されているので1であり、次のよう更に簡単になります。
これを展開すると4つの項が現れます。
{}内の4個の積分をみると、第1項と第4項、第2項と第3項は、同じ種類であるようですが、とりあえず4項ともハミルトニアンHを代入し展開してみます。
ゆえに第1項の積分は次のようになります。
ここの途中計算では次のエネルギーを使っています。
ゆえに第4項の積分は次のようになります。
ここの途中計算でも次のエネルギーを使っています。
ゆえに第2項の積分は次のようになります。
ここの途中計算では次の重なり積分を使っています。
4つの項とも展開しましたが、残っている積分をさらに次のような略記号で表わし、簡略化します。
第1項と第4項が同じ、第2項と第3項が同じであることがわかります。
ゆえに原子価結合法(VB法)で求めた水素分子の基底状態の全電子エネルギーEは次のものです。
S J K J’ K’ -Lの積分値は、Webの積分表より引用すると次のものである。