「既存不適格」的なものは思い切って断捨離を。

 

建築の世界ですと、基準が変わる前の建物で、新しい基準には適合していないものを「既存不適格」と言うそうです。既成の園庭遊具には基準がないのですが(都市公園に設置する遊具の基準が参考になっている)、一般的な公園利用のような条件とは違う集団で保育する場にあるものとしてどうなのか、という視点から、特に私が子ども時代からあるような昭和時代に設計され、保育者がハラハラドキドキしている遊具の見直しについては、早急に行う必要があるのではないでしょうか。

 

滑り台の例

 

【すべり台のステップの隙間が思わに事故を呼ぶ】

 

すべり台でのけがは、垂直落下、衝突が多いようです(日本スポーツ振興センターのデータによる)。

容易に登れるので、まだまだ握力や腕の力、危険を伴う場所での判断力、とっさの危険回避力などが育っていない子も高いところに行けてしまいます。そこで、撤去できない状況下で、垂直落下によるけがを防ごうと土で埋めたことがありました。公立の施設です。

 

【おとなの思考・試行錯誤が大事。気づけば即時アップデートを】

 

これによって、下には落ちなくなりました。ただ、金属製の柵や手すりが残っていますので、ひっかかりや衝突などの事故は、柵の形状によっては十分に起こりえます。また、ロープなどを備えれば、首に絡まるなどの事故も生まれます。時間がたてば土も削れ、遊具と築山との間に隙間が生まれれば挟み込みなどの危険性も生じてきます。ボルトやナットなどの不適切な突起物も要注意です。

埋めれば大丈夫ということではないので、スタッフ間での議論と子どもの様子の見届けからのアップデートは不可欠です。

 

子どもとおとなの人数からも厳しい環境

保育者1人に対して子ども30人(4~5歳児)という基準で、きめ細かく目を配り気を配り、ということを行うとなると正直厳しいのが現実です。例えば、下の総合遊具ですが、6か所から上り下りできます。難易度は低いので、1歳児も簡単に上に行くことができます。禁止するしかないのですが、大きな子にあこがれて、自分もそこに、と思うのがひとの性(さが)です。まして自分の力で行けそうな難易度です。その気持ちを抑えること(調整すること)大事かもしれませんが、その子の育ちを考えると、湧き出る意欲を成果に結び付けていきたい、と思うのも保育者の性(さが)ではないでしょうか。止めるということは、双方にとってメリットがないのではないか、と感じます。が、止めるしかないのが現状です。

 

仮にもっと大きくなった5歳児の子たちがここで自由に遊ぶとなると、蜘蛛の子を散らすように子どもが行ったり来たりしますし、自然発生的に集団遊びもおこなわれるでしょう。そうしたら、どう考えても見切れません。使用ルールをもうけて厳格に守らせる、となると、正直つまらなくなり、ここで遊ぼうとする子は減るでしょう。そもそも遊びは、自分たちで創造するからおもしろいのであって、規制のためのルールを守ることが多すぎれば、楽しさに意識を振り分けたくてもなかなか難しくなると思うのです。※自分たちで決めたゲームのルールを守るのとは違う。

おとなもしんどいです。楽しくないのがわかるからです(自分の立場に置き換えたらすぐにわかること)。

楽しく遊んでほしいと願う気持ちとは裏腹な自身の言動にへきえきとしてきてしまう人も少なくないのではないでしょうか。

 

【撤去前の総合遊具。老朽化も進んでいた】

 

【撤去後。広い場所ができ、夢もふくらむ】

 

さて、上の写真の公立園では、そんなハラハラ・ドキドキの遊具を老朽化したこともあり昨年度末、撤去しました。

その前には、やはり鉄製のすべり台も老朽化で処分していました(錆びてすでに使用を中止していたもの)。

 

ここに、広い空間が生まれました。

総合遊具のあった場所には柔らかい土を入れてあります。

より安心できる地面は、保育の基本ではないでしょうか。

 

 

より安心出来る土について

関西・中国地方は、関東から東北、九州のように、園庭のベースとなる土としてよく使う黒土や赤土などが手に入りにくいのが現状です。そこで、基本的に真砂土が使われることが多くなります。しかし、園庭に使われる一般的な真砂土は、小砂利が浮き出てきて、それが子どもの足を滑らせたり、転んだ時に傷を作りやすくさせたりしてしまいます。真砂土であっても小砂利を含まない細かいものであれば、有機物を混ぜて使えることもあるかもしれません。

土選びの時は、自分でしっかりと触って確かめてください(自分たちで選び抜くこと)。可能であれば、1㎥(立方メートル)購入し、何か所かにそれを置き、混ぜる有機物の比率や種類を変えて、自分たち(子ども・おとな)が安心できる土づくりを思考・試行錯誤してほしいと思います。奈良文化幼稚園の園庭では1㎡(平方メートル)の面積で数か所、違う条件で土を置き、確かめてみたことがありました。やってみないとわかりません。やってみて使って確かめて、そしてアップデート。

 

基本は、そこで過ごす自分たちの感覚です。妥協せず、どん欲に追い求めてください。専門家(造園屋さん、建設会社さんなど)の知恵も得つつ、楽しみながら土探し・土づくりを進めてほしいと思います。より安心できる土と出会うための旅はどうか楽しくなさってください。苦痛だと絶対にやらなくなりますので…。

 

 

「既存不適格」的なことがわかればすぐに対応。

何かあってからでは遅いのです。

それぞれの専門家の知恵と手を借りつつ、そして保護者や地域のみなさんの協力を得つつ、みんなで進めていくことが極めて大事だと感じます。

 

やって失敗するなら、やらない方がいい。

これを支持する風潮が強い日本社会だと感じます。

でも、それで一番苦しむのは子どもたちなのではないでしょうか。

格好いいおとなの背中こそ、最高・最幸のモデルではないでしょうか。

 

園だけでなく、保護者や地域と一緒になって、みんなで「子どもが育つための環境を保証すること」「じゃあ、どんな環境がいいのか」などについて、意見交換を活発にし、取り組むことが極めて大事だと感じます。

 

 

おわり。