フィラデルフィア通信㉒平和を掲げるクエーカーの聖地フィラデルフィア | 019|まる・いち・きゅう

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丸い地球をまわりながら考えていることの記録

 アメリカの大学スポーツの試合では、各大学のマスコットキャラクターが登場して応援するのは日本でも知られていると思う。コロンビア
大学はライオン、プリンストン大学はタイガーといった具合だ。ハーバード大学が創設者ジョン・ハーバードを用いているように、人物がマスコットになる場合もある。ペンシルベニア大学はというと、「クエーカー」がキャラクターだ(写真参照)。彼は一体何者なのか。

 

スタジアムでポーズするペンシルベニア大学のマスコットキャラクター「クエーカー」


 マスコットとしては人間の形をしているが、クエーカーは実はクエーカー教という宗教の一派、あるいはその信者のことを指す。そしてペンシルベニア大学のマスコットに起用されていることからもわかるように、ペンシルベニア州とクエーカー教は深いつながりがある(ただし大学自体は無宗教)。キリスト友会とも称されるクエーカー教は1650 年代初めにイングランドで始まった宗教だ。しかし、クエーカー教徒の活動が拡大すると、クエーカー教徒に対する迫害も広がるようになる。その中で、ウィリアム・ペンが、クエーカー教徒が安全に暮らし、信仰を守れる安住の地として作り上げたのがペンシルベニア州なのだ。今でも州都フィラデルフィアにはアメリカのクエーカー教徒が集中していると言われる。


 クエーカー教は何よりも、その揺らがない平和主義で知られている。私もいくつかのクエーカースクールにお邪魔したことがあるが、「私たちは人間一人一人に神が宿っていると考えているから、誰かに暴力を振るう、ましてや誰かの命を奪うということは、神への冒涜でしかないのだ」と先生が説明していたのが印象的だった。暴力は常に誤りだというこの信念が故に、クエーカー教は歴史的に多くの良心的兵役拒否者を生んできたことでも知られている。ちなみに第二次世界大戦直後の1947 年のノーベル平和賞はアメリカとイギリスのクエーカー団体に贈られている。


 アメリカの歴史をみても、非暴力や平等への信念を曲げないクエーカー教徒が果たしてきた役割は大きい。アメリカで初めての奴隷制度廃
止運動団体をつくったのはフィラデルフィアのクエーカー教徒だ。以前も紹介したが1911年に女性の参政権を求めるアメリカで最初の屋外集会が行われたのもここフィラデルフィアで、これにもクエーカー教徒が関わっていた。これまた過去に記事にしたが、初めて「犯罪人の真の反省と更生」を目指したことで知られるイースタン州立刑務所の設立にもクエーカー教徒が関わった。


 クエーカー教が示してきたような「平和の実践」が、いかにして不可能を可能にし、多くの人の尊厳を取り戻し、世界の歴史を形作ってきたかということを、今一度見つめ直したい。

 

(SAITAMAねっとわーく2018年1月号より)