フィラデルフィア通信⑭人種の坩堝(るつぼ)を問い直す | 019|まる・いち・きゅう

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丸い地球をまわりながら考えていることの記録

 とある休日、ベトナムフォーを食べに行かないかと先輩に誘われた。キャンパスからは少し離れたところで滅多に行かない場所だが、以前行ったことがありフォーもベトナムコーヒーもとてもおいしかったと記憶していた。喜んでイエスと言った。
 

 もう一人の先輩も加わり3人でフォーを食べ終え、私はすぐそばのアジア系スーパーでここぞとばかりに食材を買い込み帰路についた。行きは運動も兼ねて家から70分の道のりをトコトコ歩いて行ったのだが、帰りは買い物の荷物もあったのでバスを使うことにした。レストランの目の前から家のすぐ近くまで一本で行けるバスがあった。
 

 バスに乗って驚いた。50人程度が乗れるバスがほぼ満員で、私以外は黒人しかいなかった。その後バス停毎に2人程度が乗降したが、乗っていた約30分の間、バスに乗ってきた白人は3人のみ。その他はヒスパニック系が一人とアジア系が私以外にもう一人だけだった。ちなみにフィラデルフィア市の白人と黒人の比率は2014年の国勢調査によると45.3%と44.1%でほぼ同数だ。SEPTAと呼ばれる市内を走る電車に乗ってもいつも圧倒的に黒人が多いことにはこれまでも気が付いていた。公共交通機関を利用する人の人種の割合にここまでの偏りがあるということをどう捉えるべきなのか。

 

フィラデルフィアの公共交通機関はSEPTAと呼ばれ、電車、バス、 路面電車の3種類がある。

 

 問題は単に公共交通機関の利用に関する話では済まなそうだ。バスのルートは南フィラデルフィアから西フィラデルフィア。どちらも比較的不動産が安価で黒人が多く住んでいる。帰宅後フィラデルフィアについてのデータを調べると、人種によって居住地域がきれいに分かれていることがわかった。フィラデルフィアはスクーキル川を挟んで東に市街地が広がり、西にユニバーシティシティと呼ばれるペンシルベニア大学を中心とした大学都市区が広がる。地図をみると、黒人はこのふたつの地域を避けるかのように、北フィラデルフィアと南フィラデルフィア、そしてユニバーシティシティよりもさらに西にいった地域に集中していることがわかる。

 


"How Segregated is Philly? Here's a Map That Shows You"から。他の都市についてはWIREDの記事で見ることができる。

 

 ペンシルベニア大学周辺は長らく治安がよくない地域とされていた。大学はそれを理由に学生が敬遠することのないよう少しずつ土地を買い取り、卒業生が低利息のローンで不動産を買えるようなしくみを整えるなどしながら地域の治安の向上に努めてきたと言われている。しかし結果としてそれが黒人を西や南へ追いやっているのだとすれば、そこには教育へのアクセスと人種という新たな問題もみえてくる。
 

 人種の坩堝といわれるアメリカ。しかし「多人種共生」や「機会の均等」はどこまで実現しているのだろうか。人種問題の根深さを改めて知る。

 

(SAITAMAねっとわーく5月号 PDF版はこちらから)