ケンブリッジの風 25 『アリソン・リチャード館』 | 019|まる・いち・きゅう

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丸い地球をまわりながら考えていることの記録

「私の学部が引っ越ししたの!」というと「え?あなたじゃなくて学部が?」と聞かれる。そうなんです。私は引っ越していません。引っ越したのは学部です…。



ケンブリッジには「ダウニングサイト」や「ニューミュージアムサイト」などと呼ばれる学部群が街中にいくつかあり、それぞれに人文科学系や科学系などとおおまかな学問区分で集まっている。これまで政治学部はなぜかそのどのサイトにも属さず独立した敷地を持っていたが、20121月から法学部や文学部などがある「シジウィックサイト」の新築の建物に移動した。その名もアリソン・リチャード館。学部がいかに私のカレッジに近くなったかや、建物の中にある新しいカフェの話などお伝えしたい話は山ほどあるが、今回は建物の名前に注目したい

 
アリソンリチャード館はかなりモダンなコンクリート建て。ケンブリッジでは古いものから石造り、レンガ造り、コンクリート造りと、建てられた年代がわかる 



アリソン・リチャード教授は2003年~2010年にケンブリッジ大学副学長を務め、1412年に副学長ポスト創設以来初の女性副学長としても有名だ。2007年には東京大学130周年を記念して東大安田講堂で行われた東京大学・朝日新聞共同シンポジウムのために来日もされている。リチャード教授の専門は人類学で、特に霊長類の研究で知られ、ロンドン大で博士号を取得後アメリカに渡りイェール大学で長年教授をされていた。後に大学の運営に関わるようになり、ケンブリッジの副学長の直前までは同大筆頭副学長も務めている。



そのようなリチャード教授に私は昨年11月にお会いした。というのも実はリチャード氏はかつて私の属するニューナムカレッジを卒業した女性なのだ。卒業生にせっかくここんなにも素敵に活躍されている女性がいるのだからと開かれたリチャード氏を囲む会に、私も参加したのだ。こじんまりしたアットホームな部屋に学生20人ほどが集まり、彼女のライフストーリーを伺った。研究に没頭しフィールドワークに熱中する若かりし頃、偶然にも訪れた渡米のチャンス、家族と仕事の両立、ケンブリッジ副学長のポストについた経緯などを聞きながら、氏の行動力とパワーと温かさに感銘を受けた。



私の大学生活も残り数ヶ月。アリソン・リチャード館での授業も残り数えるほどであるが、氏のように自分の信念を持ち、迷いながらも前に進める女性になりたいと決意を新たにする春である。