ケンブリッジの学費:学生運動 | 019|まる・いち・きゅう

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丸い地球をまわりながら考えていることの記録

報道の力は偉大や偉大。日本でもイギリスの大学授業料が著しく上がるという話題が一時期メディアを賑わせたようだ。流れた映像の中には反対する学生の暴動の様子も含まれており、私の身を案じて連絡をくれた人も
いた。報道されるに至ったような大規模なデモは実際には少なく、ケンブリッジでは起こらなかったので私自身が何かに巻き込まれるようなことはなかった。しかしこの問題はケンブリッジでも波紋を呼んだのは確かである。

事の発端は昨年10月にブラウン卿らが公表した「高等教育財務と学生の経済に関する独立検証報告書」にある。この報告を受け、政府はイングランドの大学授業料引き上げ案を発表。これが大きな議論を呼び、ロンドンはじめ各地で大学生のデモが相次いだ。が、昨年12月の決議では、イングランドにある大学は学部生の年授業料の上限を現在の3290ポンド(約50万円)から2012年9月以降は9000ポンド(約120万円)まで引き上るとした。イングランドの大学は1大学を除きすべて国立大学なのでほぼ全ての学生がこの影響を受けることになる。

この授業料値上げによる最大の懸念は低所得家庭出身の学生の大学入学の機会を阻むということである。引き上げは大学がこういった学生の入学支援措置(奨学金など)を実施することが条件となっているが、具体的な規定はまだない。ただ、イギリスでは大学の授業料は原則、前払いではなく、学生が政府から融資を受け、卒業後収入が一定レベルに達した時点から長期返済できる仕組みになっている。そのため入学自体にはさほど影響がないかもしれないが大学進学を躊躇するきっかけにはなるだろう。授業料引き上げを受けて授業料返済スタート時の収入や返済額は変わるとはいうものの、もし授業料が最大の9000ポンドまで上げられれば卒業時には学生は38000ポンド(約500万)近いローンを抱えての社会人デビューというシナリオも充分考えられるからだ。

間接的な影響は他にもある。イギリスでは高校卒業後大学受験をし、合格すると、大学側と交渉して入学を一年間遅らせ(いわゆるギャップイヤー)、旅行やボランティア・職業体験などの社会経験をする学生が多い。しかし今回の改革では2011年度の入試を受けた場合でも入学を2012年度に遅らせると改革後の授業料が適用される。従ってこのギャップイヤーをとる学生が激減すると予想されている。大学前に視野を広げる機会が狭め
られてしまうのは非常にもったいない。

教育は国の未来。長期的なビジョンをもっての政策決定を心から願うばかりだ。もちろんそれはイギリスのみならず、日本はじめどの国のも当てはまるであろうことと思う。

(「SAITAMAねっとわーく」3月号より)