ケンブリッジの風③ オックスブリッジ戦 | 019|まる・いち・きゅう

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丸い地球をまわりながら考えていることの記録


 日本で慶應と早稲田が切磋琢磨しているように、ケンブリッジとオックスフォードも何かに付けてお互い張り合いたがる。ラグビーやボートのオックスブリッジ戦は誰もがその結果を気にかけているし、恋人がオックスフォードにいる私の友人はなんとも肩身が狭そうだったりもする。

 多岐に渡るオックスブリッジの仲睦まじい対立。日常の思いがけない場面でも発見することもある。先日カレッジの友達と話していると、どうやらちょっといらいらしているよう。事情を聞くとこんなことを言う。「信じられない!さっきエッセイを書くためにオックスフォードの教授が書いた本を読んでいたんだけど、『ケンブリッジのチュートリアル』って書いてあったの!」一体これのどこがおかしいのか全くわからなかった私だが、しばらくして、彼女はその教授が「スーパービジョン」ではなく「チュートリアル」という表現を使ったことが気に食わなかったらしいということに気がついた。

 オックスフォードのチュートリアルとケンブリッジのスーパービジョンは呼び方が違うだけで中身は同じ。教授が生徒 1 ∼ 3 人と行う少人数制授業のことである。この取り組みは「伝統二校」独自のものであるだけに政府の補助金は出ず、掛かる費用は各カレッジが賄う。また、これはコース受講生全員に対して行われる大教室での講義とは別で、講義をもとにさらに自分で文献を読み書き上げたエッセイを、持ち寄り議論する場である。このエッセイは成績に反映することはないため、学生は、評価を気にせず自分の興味・関心を存分に追究することができる。また、文献を読んでいてわからなかったことやテーマに関して自分が考えたことを教授にぶつけることができるのもこのスーパービジョンの場である。

 両大学が共に誇る少人数制教育。中身は同じなんだから呼び方にそんなにこだわらなくていいじゃない、と思ってしまうものの、そこはやはり伝統が物を言う。なにせ、ケンブリッジで一番影響力があるのは法律よりも何よりも「今までずっとこうだったから」の一言なのだ。だからやはりオックスフォードではチュートリアル、ケンブリッジではスーパービジョン。妥協は難しそうだ。