ファミリー デスソース。Vo.恒吉
昨日、近所のバーにて。
以前、一度同じバーで会った事のあるオジサンが娘と嫁を連れてきていた。
「オバ犬きいたよ!良かったよ!ミスチルのポジションねらえ、ミスチルの!!」
なんて事をゴキゲンな感じで言われたので
ヒーローになりたいぃー。
と心の中で歌いつつ、桜井さんばりに人気者になれたら伊勢海老を丸ごと、めちゃ食べよー、とかも思いつつ、この家族達と会話を楽しみながら呑んでいたよ。
すると突然。
「俺、辛ぇの強ぇから」
と言ってタバスコの変わりにデスソースをパスタに死ぬほどかけ始めた。
とめたよ。
ちゃんと、とめた。
しかし、彼はかっこ良かった。
ガンガンドロドロジャンジャカかけた!!
うおー。
もう、これはオジサンじゃない!
こんな事をするのは精神年齢が絶対に低い!
でも好きだ!
こんな事をするのは中学生くらいだぞ!!
もう「オジサン」とか呼ぶのは逆に失礼だ!
もう彼は「オジ君」だ!
そんなオジ君は、娘の「こいつバカじゃねえの」という地底を這うような低い声での鋭いツッコミにも負けず!
嫁の「あんたやめなさいよ!明日、肛門破壊してもしらないわよ!」という、恐ろしい4文字熟語みたいな『肛門破壊』という言葉に臆する事もなく、とにかくデスソースをかけてかけてかけまくった。
うわー。もう、パスタ見えねえよ。
なんか、ペペロンチーノがミートソースパスタみたいになってんよ。
これ、本当に食べるのかなあ。1人罰ゲームじゃないか、これ。
とか思いつつ、オジ君を観察していたら。
おお!どんどん食べるっ!!
「そんなに辛くねえよ」
なんて言いながら。
す、すげえ。
この人、本当に辛いの大丈夫なんだなー!
と感心していたのも束の間。
「グッ、グッボッヒュッ」
ん?
聞いた事のない音がオジ君から発せられた。
すると。
「か、からいよお」
ついには素直なオジ君が顔をだした。
娘の「ねえ、本当にバカなの?ねえ、頭おかしいの?」
も
嫁の「あーあ。言わんこっちゃない。なんでそんなことするのよー」
の的確なツッコミもオジ君には、もう届かない。
坊さんが修業中に浴びる滝のような汗をかき、デスソースと同じような顔色になって悶えるオジ君には、もう声は届かないのだ。
すると、嫁。
「そんなに辛いの?ちょっと一本だけ頂戴」
といって、1本パスタをとり、口の中にスルスルと入れた。
あーあ。やめときゃ、いーのに。。
そして。
「うっ」
という言葉と共に、嫁の口から今入れたばかりのパスタがそのままスルスルと出てきた。
なんだか使えないカードをATMの機械に入れてしまった時のように、即、スルスルとパスタが出てきた。
わ、笑いを堪えなければ。。
なんとか笑いを堪え、2人に水を差し出した。
なんだか水を飲んだ夫婦は揃って12Rフルで戦った後のボクサーみたいにグッタリしていたよ。
その時の娘。
娘が親達に向けた視線。
それはまるで、ボクシングコーチの「距離をとって試合を運べ!」という指示に従わず相手選手に突進していき、結局ボコボコにされて帰ってきたボクサーを見るような、
哀れとも、怒りともつかないセコンドに立つコーチの目をしていた。
さて。
何故、オジ君はあんな事をしたのか。
それは、きっと。
家族の前で、俺なんかよりもよっぽど。
ヒーローになりたいぃー
、だったのかもしれない。
後から話を聞いたら、その日は家族が10年以上飼っていた犬が亡くなって、その弔いとして家族みんなで呑みにきたらしい。
身体をはったオジ君や、ATMみたいになっていた嫁は、もしかすると娘を笑わそうと、そして自分達も元気がでるように、やった事なのかもしれない。
そう考えると、少し暖かい気持ちになり、ちょっと泣きそうなった。
でも、ただ一つだけ解っている事がある。
まあ、あの夫婦はデスソースの辛さをなめていただけだった。
娘の「犬も死んだけど、あんた達もデスソースで死ぬんじゃね?」というクールでブラックなツッコミが忘れられない。
オバ犬は13時より、新宿MARZでライブスタート!