どうも( ^_^)/
夢の中で走ろうとすると空に浮かび上がってしまう者です。
おめでたい頭をしています。ファンタジーを忘れない心を持っているのだと好意的に解釈しておきます。
スピッツ/醒めない
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段々、ジャパニーズロックの妖怪と化してきた感すらあるスピッツ。爽やかそうに見えてエグ味のある歌を歌い続けて30年。ずっと変わりません。草野マサムネ(48歳。来年2017年で50歳)さんも老けません。
01.醒めない
草野マサムネさんが甲本ヒロトさんに心酔してパフォーマンスを真似ていたのは有名ですが、本当にマジでびっくりするくらい似合わないです。なぜ誰も止めなかったのか、止めても聞かなかったのか。最終的には「自分の道はこっちじゃない」とご自身で気付いてくれたのは本当に良かったです。
表現の仕方は変わっても、ロックの夢を見続けるそのまなざしはまったく変わらない。『醒めない』は、よりそんな初期の感動に正直な作品になっています。どんどん聴いていきましょう。
02.みなと
旅立つわけでもなく、遠くに行きたいと思うわけでもないけど、ついつい人は海に行って、出港する船を眺めてしまったりする。
それを意気地がない態度だと批判してしまうのは簡単だから、草野さんはそんな安易な道を選ばない。薄れていく大切な思い出や、不甲斐ない自分を責める気分を全部丁寧に抱き締めて、錆びた港で歌を口ずさむなんて写実的な描写に留める。
それが沁みる。どうしようもなく。
03.子グマ!子グマ!
エモーショナルロックを使いこなしていますね。ドラムのスネアを打つ一つ一つにすら情感が伴っています。と、思ったら急にビートを変えて来たりする。いやはやいいように転がされちゃいますね。
04.コメット
彗星ではなく、金魚のコメットのことでしょう。不器用な泳ぎ方しかできない小さな魚が、愛されることを期に人になった、こういう歌詞のストーリーの立て方は最早十八番です。
ピアノの美しい音色が綺麗です。
05.ナサケモノ
情けなくても獣。本能が伝えたいメッセージすら伝えらない。けど獣なんだと、それはプライドでもあるし、どこまで行っても獣でしかないという諦めもある。
カチャカチャと後ろで鳴っているのはゼンマイ仕掛けのおもちゃでしょうか。タイプライターかな。面白い音です。
06.グリーン
ドラムのロックンロールなビートに、ちょっともったりしたイメージのボーカルが乗るとスピッツのグルーブになるんですね。
ロックへのひたむきな憧れと新芽のような無限の可能性を信じてやまない人たちが鳴らすピュアなグルーブです。
07.SJ
重たいギターの音から、気だるそうなグルーブが導かれていく。サビ始まり。夢の終わりと過酷な現実の始まりを暗示させる歌詞が流れ出す。
しかし、それは間違いでした。二回目のサビで、誰かが通った道を夢と呼ぶのを辞めるという決意の歌だと知れます。
最初と最後の歌詞は同じですが、抱く感情は正反対。やられました。
08.ハチの針
草野マサムネが奏でる若いギターリフ。でも円熟味が見えるのが良い。ロキノンジャパンのインタビューで
今回はむしろ先祖返りじゃないけど、退行してもいいぐらいな感じで。そのへんはもうあんまり考えず、素直に「おっさんぽくてもいいじゃん」っていう気持ちでやれたんじゃないか
と語っていたとおりの出来です。不惑を当に越したバンドだけが醸し出せる足腰の強さを感じます。
09.モニャモニャ
これがモニャモニャだそうです。どうやって家の中に入ったのか分からないほど大きいです。
鳴き声がモニャモニャなんだろうなぁとか、草食に見せかけて実は雑食かもなぁとか、毛の生え代わりがエグそうだなぁとか、考えているうちに曲が終わってしまうほど、穏やかな楽曲。
このアルバム全体を流れるファンタジックな雰囲気の象徴のような曲です。ここにも、良い意味での先祖返りを感じます。
10.ガラクタ
笛とかポコポコした音のアレ(名前失念)とかおもちゃみたいな音に反して、バンドの音は思い切りロックしてて、そのバランス感覚は凄まじいです。
若さを少し通り過ぎた場所のラブソング。敢えてガラクタなんて言葉に隠した照れが少年ぽくて良い。
11.ヒビスクス
タイトルはHibiscus(ハイビスカス)のラテン語読みで、歌詞の中に出てくる『白い花』に当たるのはハワイ原産の種類があって、≪約束の島≫はハワイなのかなと想像しました。
白いハイビスカスの花言葉は『艶美』らしいです。性的な雰囲気があります。寂寥の中にも爽やかな疾走感がある曲調ですが、生々しい愛憎の終わった末の歌なのかもしれません。
12.ブチ
後ろの方で鳴っているシンセのチープな音が楽しい。どこかとぼけたような曲の雰囲気は歌詞にも波及しています。
人を捕まえて≪ブチこそ魅力≫などとは失礼極まりないと思うのですが、草野マサムネボーカルの魔法がかかって心温まるラブソングへと変容してしまう。ある意味ヤバい曲です。
13.雪風
まだそんな感動的なフレーズを隠し持っていたのかと驚かされるイントロで勝負が決まっています。こんなの、良い曲に決まってるじゃない。
14.こんにちは
一曲目の“醒めない”と対になるようにと作られた最後の曲。そんな訳ないでしょうが、何だか十分で作って三分で録ったみたいな、思い切りの良さと衝動の強さを感じます。
こんにちは、なんてロックさの欠片もない普段の挨拶が、ちゃんとロックの言葉として機能しているのが最高です。
俺は、前作でスピッツのことを、日本の日常を取り戻す象徴のように書きましたが、ちょっと書きすぎだったかなと思いました。
彼らはいつだって、ロックの眩い夢の中を生きている自然体なバンドなのだから、特別な感慨など抱く必要はないのです。


