今回は、楽しいお話ではありません。

ツーリングと抱き合わせで書くには、ちょっと重いと思ったので分けて書いてます。

今そんな気分じゃない人は、どうぞスル―してください。

 

 

小型車ツーリングから帰ったその日、僕は馴染みの店に向かった。

 

 

RED CROWS

カウンターしかない小さな店だが、何かあると仲間が集まる場所。

 

 

 

トイレの写真が、画鋲ではなく小さな釘で留めてあると言えば、雰囲気がわかるだろうか?

マスターは、僕らが集まる時は、普段は使っていない2階の席を開けてくれる。

 

缶ビールは冷蔵庫にあるから、勝手に飲んでくれ。

あと、ハーゲンダッツも冷凍庫に入れておいたから。

いつも、親戚の家に遊びに来た気分になる。

 

今夜はお別れ会だ。

小学校から付き合いのある親友Sの奥さんが、ガンで亡くなったのは一年前。

コロナも重なって、ひっそりと家族葬で送ったと聞いていた。

だが、彼はショックのあまり、その日から誰とも連絡を取らず引きこもってしまったのだ。

最愛の妻を亡くした男は、一年ぐらいで後を追うように亡くなるという話はよく聞く。

内心かなり心配していた。

 

そんな彼から、連絡があった。

 

お別れ会みたいなことをしようと思うんだけど、来てくれるか?

 

僕はメールを見た瞬間、ルフィのごとく叫んだ。

 

あったりめぇだ!

 

 

声を掛けられたのは、特に親しかった一部の人間だけだったが、みんな二つ返事で集まった。

僕は、彼が19才の時にナンパした時からの付き合いだったから、かなりの年数になる。

 

 

 

二階に上がると、部屋の奥に写真と花が飾られていた。

ガヤガヤといつものように、宴が始まった。

特に気を遣うこともなく、昔話や今の近況話で盛り上がる。

 

 

 

やがてN氏がギターを持ち出し、好きなロックを歌いだした。

ボンゴを打ち鳴らす奴もいる。

いつもこんな調子なのだが、英語で歌うものだから僕はついていけない(笑)

 

しいちゃん(奥さん)の好きだった曲が思いだせなくてさ、ごめんな!

 

そう言うと神妙な顔つきになり、次の曲はみんなで歌おうと言った。

 

 

 

そして、まさかの歌詞カードが配られる!(笑)

 

曲は、ユーミンの「卒業写真」と「あの日に帰りたい」だった。

ロックバンドをやっていた彼らしくない選曲だったが、今夜の為に選んだのだろう。

いつも酔っぱらって弾くものだから、何度もトチっては笑いを誘うのだが、この時は一か所もトチらなかった。

歌っている最中に、Sはそっと涙を拭いていたが、僕は見て見ぬふりをした。

 

やがてお開きになり、帰り支度を始めるとSは娘が迎えに来るという。

 

あの車でか?

 

あぁ、今は娘が乗ってるよ。

 

 

 

トヨタ ハイラックスサーフ ミッション仕様車

 

しいちゃんは、小柄ながらとても活発な女性だった。

オートマ車なんて何が面白いのよ! やっぱりミッション車でしょ!

リフトアップしたこの車によじ登るように乗り込むと、手足の如く操って爆走していたのを思い出す。

 

10年が経ち買い替え時期になった頃には、4Wブームはとっくに終わっていた。

ましてやミッション車なんて、どこにも売っていなかった。

 

それでもしいちゃんは、デカいミッション車に乗りたがった。

Sは、4Wの専門店を探して、軽自動車が買えるほどの金額でこの車をフルレストアした。

 

さぁ、これでまた10年は乗れるぞ!

 

そう言うと、しいちゃんは大いに喜んだそうだ。

奥さんの形見ともいえるこの車を、今は娘さんが乗っている。

その事実は、僕にはとても感慨深いものがあった。

 

 

帰り道、Sからメールが来た。

 

久しぶりに大笑いしたこと。

生きる活力が湧いて、また出かける気分になったこと。

つくづく友達は、ありがたいと思ったこと。

そして、次もまたよろしく!と綴っていた。

 

そうか、次もまた来る気になったか・・・

僕は、内心ほっとした。

 

我々世代は、世間で言えばアラフィフどころか、アラシックス。

 

友よ、それでも、もう少しは生きられそうだから、人生を楽しもう!

 

誰が先にくたばるかは分らないが、その時は今夜のようにみんなで大笑いして送り出してやるよ!