大阪歴史博物館主催「聴いてみよう雅楽 見てみよう雅楽 知ろうよ雅楽」は今回が第三回目となります。緞帳が上がりまずは何のMCも無く、双調「鳥急」を舞楽吹で演奏。お客様の耳慣らし、と言いますか。演奏する我々も吹き慣らし、というような感覚です。管絃と微妙に配役を変えているのですよ。気付いた方はおられるかな?一旦緞帳を閉め、配役を変えて改めて管絃の演奏に入ります。
今回のテーマは双調。まずは「双調調子」。音取ではなく調子を演奏するのも私自身の好みです。意味など何も無いです(笑)。最初の演目は「賀殿破・急」。いきなり、ゆうに30分はあろうかという曲を演奏。「賀殿破」は延八拍子の拍子十、軽く20分は超えます。演奏中客席を見ると、睡魔に負けて頭が落ちるお客様が一つ、また一つ…となっているのが良く分かります。この瞬間、私は「勝った」と思っています(笑)。人を眠らせるだけの心地良い演奏だ、とも言えますがそれよりも、この曲を選曲した私の勝利だろう、と(笑)。まあこんな選曲をするのは私ぐらいなものでしょう。たいていは「客が飽きる」「時間が無い」というような理由で避けられる曲です。しかし、お客様は雅楽を見に来ている訳であって、我々雅楽の側の人間が客にへつらう事は無い訳で、雅楽は長く退屈なものだ、とイメージがあるのならばその神髄というか、びっくりするほど退屈な曲こそを見てもらうべきだと考えます。その上で「賀殿急」を聴いて頂くと、何と軽快な曲なのだろうか?と感じるはずです。急、だけを聴いてもらってもそれを退屈と思われてしまえば、もう雅楽の側の手は無い訳で(笑)。実際、管絃最後に演奏した「陵王」はアンケート上では支持率ナンバー1でした。その理由は「軽快」「メロディが良い」などです。雅楽曲の中にも軽快な曲がある、と言う事を知ってもらうには軽快で無い曲と比較してもらうのが一番です。面白い事に、「賀殿破」のようなゆったりとした曲の方が好き、と言う人も結構おられるのですよ。特に雅楽をあまり聞いたこと無い人が。雅楽の世界に長年いると、自分たちの意見が世間の意見、と錯覚してしまいます。雅楽の演奏会に行ったことある人と無い人を比べると、それこそ1:100、もしかしたら1:1000ぐらいかも知れません。1、の人を相手にして演奏会をするのか、1000の人を相手にして演奏会をするのか、それは雅楽の演奏会を企画した人間が考える事です。確かに地方都市にいってこの選曲は無いのかも知れない。でも東京や大阪など、雅楽の演奏会がある程度行われている都市ならアリでしょう。この考えは、雅楽の演奏会を開催するという根本に立ち返る問題であります。簡単な事で、「誰の為に演奏会をするのか?」と言う事。練習の成果を披露するのなら発表会で、それは練習してきた生徒さんの為の演奏会であり、有料公演であればお客様の為の演奏会。今回は大阪歴史博物館として市民に広く雅楽を聴いてもらおう、見てもらおう、知ってもらおうという演奏会であります。雅楽は越殿楽だけでは無い、蘭陵王だけでは無いというのを分かってもらう演奏会でありますのでこのような選曲になるのです。このような前衛的な企画はこの大阪歴博以外に聞いた事はありません。「見せたい」という依頼者側と、「演奏したい」という演奏家側の思惑が一致し、企画を練りコンセプトを絞って開催する演奏会なのです。
話が大きく逸れました。これは大阪歴博の演奏会報告でした。催馬楽は「席田」を。呂施の催馬楽も演目の頻度がグッと下がります。これも事情があります。まず付物の鳳笙の調律を変えなければいけない。具体的には勝絶と鸞鏡の音が必要になります。次に絃楽器の調絃をどうするか。特に筝ですが、五音音階の内何音下げるか。これは今回様々な楽師の先生にお伺いしましたが、「実は決まってない」と言う返答。確かに、市販されている様々な音源(CD)を聴いてもまちまちです。今回私達は五音の内二音(四絃)の音を下げて演奏しました。賛否両論はあると思いますが、歌が歌いやすくという事を考えました。私は句頭を担当いたしました。笏拍子が上手く打てなくて焦りましたが、まあ何とかなりました。催馬楽・朗詠に関しては今後もどんどん挑戦していきたいと思っています。
管絃の後、楽器紹介の時間を取りました。この時間は、舞人が舞楽装束を着装する時間でもあります。舞人二人と私はそそくさと降台し、楽屋へ一目散。ここは舞台のすぐ裏が楽屋で、近いので助かります。右方の蛮絵装束を二領着付けましたが、我ながら上手く着付けられたと思います。管絃は大幅に時間が押してしまって、休憩に入ったのが15時20分。第一部はなんと80分も掛かってしまいました。トイレ我慢していた人、すいません。
休憩の後、第二部の開演。私は舞楽装束を着装する為に一度直垂を脱いでいたのですが、それを切る前にトイレに行きたくなりトイレに。時間は押しているし、焦りました。そんな事情をわかってか、MCさんが上手く時間を繋いでくれました。ありがたや。
舞楽は右舞の「白濱」。双調繋がりで、高麗双調ということで選曲しました。舞人は、メンバーが少ないので今回も舞人は二名。本来四人舞でありますので、このあたりもご批判を受けるのでしょうが、ぶっちゃけ予算が少ないのだから仕方ない。じゃ、舞人の少ない「納曽利」にすればどうか?となります。ですが第一回で「納曽利」は演奏しました(一人での「落蹲」ですが)。様々な雅楽を見てもらう、という観点で、やはり舞楽平舞を見て頂かない事には話になりません。今回はあくまで初心者の登竜門の演奏会。これを見て、もっと見たいと言う方は楽部に行くなり、雅亮会に行くなり、大阪楽所に行くなりして頂ければ良いと思います。今回は大阪歴史博物館の行事でありますので、お客様は無料(往復葉書での抽選)です。歴史に親しむと言う博物館での行事です。アンケートには「無料の公演はダメだ」という意見もありました。ただ、こうしたコンセプトを分かった上で見て頂きたいのです。我々も与えられた予算の中で動きますし、予算以上の事は出来ない。これは当然の話です。この演奏会は第四回・第五回と続くかどうかは分かりませんが(もちろん開催されると言う前提で再度企画を練っていますが、仮に今年度で終わりだとしても)このような考えの演奏会はどこかで続けていきたい、と考えています。
いつもの倍の文章量です。長文御拝読感謝いたします。