歌仙「霽の巻」をそのまま掲載しておきます。
杜国・重五・野水・芭蕉・荷兮の五人で詠んだ5吟です。
懐紙二枚に、初折オモテ6句ウラ12句、名残オモテ12句ウラ6句の合計36句で満尾です。月3か所、花2か所。一応、定法どおりです。
では、ひととおり見ることにしましょう。この順に検討しますので、さしあたり、この句解の目次としての役割を帯びています。
初折オモテ 6句
冬 つゝみかねて月とり落とす霽かな (月)杜国
冬 こほりふみ行水のいなづま 重五
春 歯朶の葉を初狩人の矢に負て 野水
春 北の御門をおしあけのはる 芭蕉
春 馬糞掻あふぎに風の打かすみ 荷兮
春 茶の湯者おしむ野べの蒲公英 正平
初折ウラ 12句
雑 らうたげに物よむ娘かしづきて 重五
雑・秋 燈籠ふたつになさけくらぶる 杜国
秋 つゆ萩のすまふ力を撰ばれず 芭蕉
秋 蕎麦さへ青し滋賀楽の坊 野水
秋 朝月夜双六うちの旅ねして (月)杜国
夏 紅花買みちにほとゝぎすきく 荷兮
雑 しのぶまのわざとて雛を作り居る 野水
雑 命婦の君より米なんどこす 重五
雑 まがきまで津浪の水にくづれ行 荷兮
雑 仏喰たる魚解きけり 芭蕉
春 県ふるはな見次郎と仰がれて (花)重五
春 五形菫の畠六反 杜国
名残ノ折オモテ 12句
春 うれしげに囀る雲雀ちり〳〵と 芭蕉
雑 真昼の馬のねぶたがほ也 野水
雑 おかざきや矢矧の橋のながきかな 杜国
雑 庄屋のまつをよみて送りぬ 荷兮
雑 捨てし子は柴苅長にのびつらん 野水
冬 晦日をさむく刀売る年 重五
冬 雪の狂呉の国の笠めづらしき 荷兮
雑 襟に高雄が片袖をとく 芭蕉
雑 あだ人と樽を棺に吞ほさん 重五
夏 芥子のひとへに名をこぼす禅 杜国
秋 三ケ月の東は暗く鐘の声 (月)芭蕉
秋 秌湖かすかに琴かへす者 野水
名残ノ折ウラ 6句
秋 烹る事をゆるしてはぜを放ける 杜国
雑 声よき念仏藪をへだつる 荷兮
雑 かげうすき行燈けしに起侘て 野水
雑 おもひかねつも夜るの帯引 重五
春 こがれ飛たましゐ花のかげに入 (花)荷兮
春 その望の日を我もおなじく 芭蕉
以上、芭蕉の挙句でめでたく満尾となりました。
この順序で句解を試みます。すでに初めの2句「つつみかねて」「こほりふみ行」は述べていますので3句目から続けます。