*悲恋END後の話です*









焼け焦げた匂いがする。

むせかえしたくなるほどの異臭に、視界に入る炎のうず。

その中心には見覚えのある女の子の姿があった。

「そうだこはる、あそこも燃やしてしまおう」

彼女の隣りで卑しい笑みを浮かべる男。

結賀史狼。

忘れるはずもない、俺が10歳のときに死んだ父だ。

---どうして俺は・・・ここに?

「こはる!」

俺の声に振り向くこはる。

そして、鋭い視線で俺を見る父。

こはるの瞳に光はなかった。

---船で俺は撃たれて・・・可笑しいな、そこからの記憶が・・・

刹那。

おかしな情景が頭をよぎった。

緑多い茂る場所、そこには七海とロン、暁人と知らない男の死体があった。

血が飛び散り、こはるだけが無傷で立っていた。

おびえた瞳は俺に向けられたもの。

嫌がる彼女を無理やり引っ張り、父さんに渡した。

「どうした、駆。もう洗脳が覚めたか?」

ゆらり、と。

不安定な足取りで俺に近づいてくる。

「今更自我に目覚めたところでこはるは戻らないぞ」

「何?!」

能力を使い父さんの足を止める。

だけど。

こはるの発した炎がつたを燃やしきった。

「こはる?!」

その様子をケラケラと笑う父さん。

「言っただろう?お前のところにこの子は戻らない!・・・そう仕向けたのはほかでもない、お前だぞ?」

「そんなことない!俺は・・・その子と約束したんだ!ずっと一緒にいるって・・・守るって!」

こはるの瞳が一瞬、ゆらぐのがわかった。

「ふん、馬鹿なことを。お前は俺の洗脳だったとしてもこの子の前で仲間を殺した!1人じゃない・・・大勢をな!」

それに、と。

言葉を続ける父さん。

「こはるを拒絶したのはお前だ!駆!」

銃口を俺に向ける。

避ける気力も、交わす気力もなかった。

---仲間を殺した俺が、生き延びていいはずがない

「死ね、役立たずの人形が!」

発砲音とともに、痛みが走る。

否。

痛みが走らなかった。

恐る恐る目をあけると。

「こは・・・る?」

目の前には腹部から血を流した彼女の姿があった。

「そんな・・・馬鹿な?!」

銃を投げ捨てこちらに駆け寄ろうとする父さんを能力で制止する。

「・・・よかった、駆くんが無事で」

冷たい手が俺の頬に触れた。

「こはる・・・ごめん、ごめん!」

血が止まらない。

どうしてだろう。

俺が銃を受けたときはこんなにも血は出なかったのに。

父が今度こそは本気で俺を殺そうとしていたからだろうか。

「謝らないでください。いいんです、駆君は覚えていてくれたから」

「え?」

「約束を覚えていてくれただけで私はうれしいです」

いつもの笑みを浮かべるこはる。

俺は彼女の笑みが好きだった。

だけどどうしてだろう。

今はすごく悲しくて、こんな笑顔見たくないと思ってしまう。

「馬鹿なこといわないでくれ。俺は・・・君を守れなかった、それどころか・・・仲間も殺して・・・」

「死んでいませんよ、皆さん。生きています。暁人君もロンさんも・・・七海ちゃんも」

「・・・そんなはず、ない」

俺の言葉を否定するこはる。

顔は少し怒っていた。

「本当です、信じてください」

彼女が嘘を言うはずがない。

それは誰よりも俺がわかってるはず。

「・・・駆、くん。・・・私達ももう一度、始めませんか?」

「そうだね、最初から始めよう。・・・今度はずっとずっと一緒だ。何の邪魔も入らない場所で暮らそう」

彼女を抱える。

そして。

燃え盛る炎の町へと進んだ。

「駆!何をするんだ?!」

父の怒声が聞こえた。

俺はそれに、

「俺たちは行くよ、父さん。二人で安心して暮らせる土地へ」

笑って答えた。

「さぁ、こはる。行こう。」

彼女からの返答はない。

出血も止まってる。





---愛しているよ。ずっと一緒にいようね

あの日誓ったはずの約束を守れなかった俺。

こんどこそ守れるだろうか。

「・・・ごめんね、な」