萩尾望都の有名なマンガの一つに「トーマの心臓」というのがある。
萩尾望都は、「ポーの一族」や「11人いる!」、「ウは宇宙船のウ」、「百億の昼と千億の夜」など、抒情性溢れるSFチックな作品で有名だが、
同時に美少年同士の精神的な恋愛(注:あくまでも「美少年」である)を描き、いわゆる「やおい」ブームの先駆者に数え上げられる漫画家としても有名だ。
そんな萩尾望都氏の美少年精神愛ワールドをモロに主題に据えたのが「トーマの心臓」という作品である。(´・ω・`)
この作品は、冒頭からいきなり、ヒロインの美少年(?)トーマが飛び降り自殺するところからスタートする。
「ユーリ…ユリスモール!」
落下しつつある彼が叫ぶその名こそが、この物語の主人公である黒髪の美少年ユリスモール(通称:ユーリ)である。
そしてその直後にユーリは、郵便で届けられたトーマの遺書を目にするのだ。(・_・;
「…これが僕の愛。これが僕の心臓の音。きみには分かっているはず。」
これはまた、何とも破壊力のある掴みである。(笑) いや失礼、笑ってはいけない。
自分を慕っていたにも拘らず、冷たくあしらっていた後輩美少年が飛び降り自殺したというだけでも衝撃過ぎるのに、
さらに自分宛に当てつけがましく(?)送りつけられた遺書が、この意味不明のフレーズである。(・_・;
これは事前に、かなり綿密に作戦を練ったにちがいないのだ。(笑)
それはともかく。
この物語は、ドイツにあるギムナジウムという全寮制男子校を舞台にして、キリスト教精神に基づく無償の精神的愛を描く物語である。(´・ω・`)
それが美少年同士の同性愛というシチュエーションをとったのは、少年に対する性的虐待が発覚したバチカンに対するあてつけでは勿論ないだろう。(・_・;
鍵と鍵穴の関係が成立しない同性同士だからこそ、肉欲に走らない精神的な愛を語りやすかったのだろうか。
昔のカトリックは同性愛を禁じていたのに、キリスト教的モチーフを同性愛で語らせるのはどうなのかという意見もあるが、そこがキリスト教のドグマに根差していない日本人的な感性であるとも言える。σ(^_^;)
さて、物語のもう1人のヒロインは、トーマに少し似たエーリクという転校生である。
物静かで大人しく、無言の実力行使でしか自分を表現できなかったトーマに対し、エーリクは正反対の性格である。
快活で行動的、思ったコトを直ぐに行動に移すことに躊躇いがない。(・_・;
この正反対の彼が、すったもんだの挙句、やがてユーリに惚れてしまう。
そして、苦しい過去を持つユーリの凍った心を溶かし、その傷を癒していく。
最後にユーリは、エーリクの言葉からトーマの無償の愛に気付き、涙を流しながら救われるのである。そして、トーマへの永遠の愛を確かめるべく、牧師になる道を選ぶのだ。
大変、美しいお話である。(;ω;)
あまりにも美し過ぎるが故に、こう思うのだ。
トーマは妖怪である。(笑)
「無償の愛」というのは、まあ、いいのだ。
過去の黒歴史故に、自分は神に愛されない存在だと思い込んで拗らせてしまったユーリに、「君は最初から許されているんだよ」と分からせてあげたい。その気持ちはワタシにだって理解できる。
しかし、その「無償の愛」を実行するに当たって、トーマは自らの命を差し出してしまったのだ。(゚o゚;;
大した腹の座り具合である。普通、そこまでやらへんやろ。(-。-;
しかも、謎の手紙を送りつけて心の迷路に誘い込み、最後は永遠に忘れられない愛の対象として、ユーリのハートをがっちりキープして、美味しいところを全て持って行ってしまった。(・_・;
そこに至る一連のドタバタは、全てここに辿り着くためのプロセスであり、てんてこ舞いさせられたエーリク以下ユーリの友人たちは、すべて脇役になってしまった。トーマの一人勝ちである。σ(^_^;)
これはある意味、呪いであろう。(・_・;
ユーリはもう、死ぬまでトーマを忘れられない。きっと結婚もせずに、真面目でストイックで尊敬される牧師として生きていくのだ。(ー ー;)
依存していた彼氏の気持ちが離れると知るや、「死んでやるから!」などとこれ見よがしに包丁を手にするメンヘラさんとは、レベルが天と地ほども違う。
あくまでも冷静に計算されたに違いないこの呪いを、誰も真似なんてできないだろう。
誰も騙されてないし、文句を言う者はいない。
ユーリもエーリクたちも、自ら進んでこの蜘蛛の巣にかかってしまったんである。(-。-;
あ、ファンの皆さん、投石は禁止です。
危ないから石を投げないで…。