T あとは面白かった点だと、石原さとみが日系アメリカ人の役で出てきて、イーオンで鍛えた得意の英語力を発揮するんだけど(笑)、ゴジラを英語風の発音で「ガッズィーラ」って言うんだよね(笑)。
O スペルは「GODZILLA」で、「GOD」が入ってるとか言うんだよね。
T 一方でアメリカ版のゴジラだと、渡辺謙が博士として出てくるんだけど、みんな「ガッズィーラ」「ガッズィーラ」言ってる中、一人だけ「ゴジラ」って言ってる(笑)。アメリカ映画だからセリフもみんな英語なんだけど、「ゴジラ」の部分だけは日本語の発音になってて面白かった。
O もともと「ゴジラ」って名前は、「ゴリラ」と「クジラ」から作った造語らしいんだけど、アルファベット表記にすると「GOD」が入るんだね。で、片や初代『ゴジラ』の設定では島の神様的な言い伝えからとって「ゴジラ」と名付けられてる。偶然なんだろうけど、どっちにも「神」の要素が入ってるんだね。石原さとみのおかげで気づくことができたよ(笑)。
T 神に選ばれし存在ということかな。そもそも『シン・ゴジラ』ってタイトルも、「シン」をカタカナにしてるのはいろんな意味を持たせてるみたいなんだけど、そのうちの一つに「神」って意味もあるみたいだね。
O あ、そういうことなんだ。なんでカタカナなんだろうとは思ってたけど。勝手に新しいという意味での「新」だと思ってたよ。
T まあ一番にはそういう意味があるんだろうけど、「シン」にはいろんな漢字が当てはめられる。庵野監督はよくそういうことするんだよ。
O たしかに考えてみると「真」なんかもあるし、いろんな解釈ができるね。さっきちらっと音楽の話題が出たけど、音楽に関して触れておきたいのが、昭和ゴジラのテーマ曲ともいうべき『怪獣大戦争マーチ』だね。
T 『シン・ゴジラ』では電車が突っ込むシーンで使われてるね。庵野監督自身がオタクだから、ああいうのも本家をリスペクトして使ってるんだろうね。
O あの曲がすごく良いんだよね。何年か前に日立が企業広告で、黒澤明にスポットを当てたCMをやってたんだけど、そのBGMにもこの曲が使われてた。取り上げてるのは黒澤監督なのに、使ってる曲は円谷作品というのはミスマッチなんだけど(笑)。そのCMが、そんなに回数見たわけでもないのに、すごく印象に残った。それだけあの曲が持つ高揚感がすごいんだと思うな。
T 誰しもが耳にしたことのある曲だとは思うから、それを劇中で使うというのは、見る人の心をくすぐるよね。
O 実はゴジラ作品ってそんなに見てなくて、見た作品でももう内容は忘れちゃったりしてるから、具体的にどういうシーンでかかってたかっていうのは覚えてないんだけどね。
T あとは庵野監督の天才ぶりについても話したいんだけど、あれだけアニメ界で成功していて実写でも成功できるってすごいと思う。両方できる人っている?宮崎駿も新海誠もアニメだけだし、そもそも実写をやろうとは思わないんじゃないかと思う。
O そうだね。そもそもアニメと実写じゃ必要な技術が全然違うと思うからね。
T 普通はどっちかだよね。この前見た新海誠のインタビューでは、新海誠は実写っぽくアニメを描くけど、では実写でいいんじゃないかというと、そうではないって言ってたし。かと言って、『シン・ゴジラ』をアニメでやるのも違うと思う。
O アニメじゃ面白くないね。アニメだと官僚たちのやりとりのリアリティがなくなっちゃうからね。
T そこを実写でやろうと思って、実際にこれだけの作品を作ってしまうのは、やっぱり庵野秀明は日本屈指の人材だと思うな。
O 僕はよく知ってるわけじゃないけど、変人って話も聞くけどね。
T NHK教育の『課外授業 ようこそ先輩』って番組があるけど、それに庵野秀明が出たことがあって、その中でクレイジーだと思ったのが、子供たちを自分の実家に連れてって、自分の両親にインタビューをさせてた。
O どういうことを訊かせるの?
T それは子供の自由なんだけど、お父さんお母さんも普通の人だから、いきなり子供にインタビューされて困っちゃってる感じだった。テレビで素人の自分の親を出して子供にインタビューさせるって発想、普通は浮かばないでしょ。
O 天才と変人は紙一重ってこともよく言われるけど、そういうことなんだろうね。
T エヴァでの碇シンジの心理描写とかも、実際に感じたことがある人じゃないと書けないと思うし。
O やっぱり劣等感なんかも感じながら生きてきたのかな。碇シンジはいわゆるヒーロー物の主人公というより、内面に弱いものを持った存在だからね。敵との戦いの前に、自分の心の中での葛藤があったりして。
T 「逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ…」ね(笑)。大学のときにエヴァを教材にした授業があったんだよね。90分の授業時間のうち60分ぐらいはエヴァを見てる授業で、めちゃくちゃ人気で立ち見が出るくらいだった(笑)。エヴァを見ながら先生が途中で止めて、ここの描写はこういう心理状態を表してるって真面目に解説する授業だったんだけど、大学の教材にもなるってすごいよね。その先生も、碇シンジには庵野監督自身の心理状態が投影されてるんじゃないかって話をしてた。
O 普通の心理状態の人だったらああいう作品は作れないよね(笑)。それは『シン・ゴジラ』を見ても思うな。
T 長谷川博己がインタビューで、自分もエヴァが好きだから、撮影中にエヴァの話を庵野監督に振りたかったんだけど、とてもそんな話ができる雰囲気じゃなかったって言ってたよ。そういうオーラも出てる人なんだね。
O そういえば、後から調べてわかったんだけど、『シン・ゴジラ』の劇中で、「どこどこ地区の方は避難してください」っていうパトカーのアナウンスの声で庵野監督が一瞬出演してるみたいだね。
T それを言ったら『風立ちぬ』でも庵野監督は声優をやってるね。なぜ庵野監督を使ったのかは未だに謎で、完全に宮崎駿監督の酔狂じゃないかと言われてるけど(笑)。
O たしかにキャスティング的に考えても、主人公の堀越二郎とは年齢も合ってないよね。庵野監督を使うには年の差が20歳ぐらいありそうな気がする。
T 声優でも役者でもないわけだしね。
O 若干、棒読みっぽい気も…(笑)。
T そうも言われてるよね。宮崎監督は庵野監督のこと好きみたいだけど。『風立ちぬ』は作品全体を通しても、趣味で作ったなって感じがするからなぁ。
O 宮崎監督も、俺も本当はクレイジーなんだぜっていうのをアピールしたかったのかな(笑)。やっぱり天才と言われる人は常人にはない感覚を持っているんだね。
T 来年はエヴァの新作もやるみたいだし、庵野監督にはアニメも実写もクレイジーな作品を作り続けてほしいね。
O 『シン・ウルトラマン』ってのも計画されてるみたいだね。
T そうみたいだね。それも楽しみだ。
O 庵野監督はウルトラマンも好きみたいだから、ゴジラは今回こんな感じだったけど、ウルトラマンがどうなるのかってのも気になるね。
T では、楽しみに待っていましょう。
The End.