O 次のテーマは『不毛地帯』。僕は山崎豊子の作品を何作か読んでるけど、それもT君に『沈まぬ太陽』を勧められたことがきっかけだから、山崎作品についてもT君と語ってみたかった。『不毛地帯』がテレビドラマで放送されたのもちょうど山崎豊子の小説をいろいろ読んでいたころで、思わずはまってしまった。

 

T 『不毛地帯』は小説でも読んだけど、僕もドラマで見たのが先だったな。

 

O 僕は『不毛地帯』に影響を受けて、引揚船が帰ってきた舞鶴の地も見に行ったからね。

 

T それは僕も行ってみたいと思うなぁ。

 

O ドラマの中でも壹岐さんと谷川さんが丘の上から舞鶴湾を眺めて、「シベリアに眠っている仲間たちの遺骨を帰してあげないといけないからね」なんて言うシーンがあったけど、まさにあんな感じで僕も舞鶴湾を眺めてきたよ。

 

T 桟橋なんかも見た?引揚船というと桟橋のイメージがあるんだが。

 

O 桟橋自体を見に行ったわけじゃないけど、「岸壁の母」と呼ばれる、いつ帰るともわからない息子を来る日も来る日も桟橋で待ち続ける母親の姿なんかは引揚記念館の資料で見たな。

 

T そうなんだ。引揚記念館っていうのがあるんだね。

 

O 壹岐さんもシベリアに抑留された後、そうしたかたちで日本に帰ってきて、商社で働き始めるんだね。

 

T 商社での仕事ぶりは面白かったな。戦闘機だったり、自動車だったり、石油だったり、その時代その時代のビッグプロジェクトがあって。

 

O 今で言うと、オスプレイのニュースを見るたびに、あのラッキード導入のときの戦闘機商戦を思い出すよ。「日本の空を守るにはラッキードしかないんだ」って。実に不謹慎な話ではあるんだが(笑)。

 

T まあ、オスプレイは米軍の持ち物であって、自衛隊が購入したわけじゃないからあの話とは違うけどね。この作品のタイトルである『不毛地帯』とは、一義的にはシベリアを指すと思うけど、広い意味ではそのときそのときの商戦の舞台となる場所のことを指していると思うんだよね。ドラマだとオープニングの後の提供が出るバックに、毎回舞台となる場所の世界地図が映されてわかりやすかったと思うけど。

 

O 戦闘機のときは日本だったり、自動車のときはアメリカだったりしたね。

 

T だから『不毛地帯』というのはシベリアだけを指すのではなくて、壹岐正にとってのそのときそのときの『不毛地帯』を指しているんじゃないかと思うね。

 

O 石油開発のときに「サルベスタン鉱区は壹岐正にとって第2の不毛地帯になるだろう」というセリフはあったけど、そこまでは考えなかったなぁ。

 

T 勝利したはずの戦闘機商戦だって、結果的には川又という友人を亡くすことになったわけだし、そういった意味ではどれもが『不毛地帯』になっていたんだと思う。

 

O 自動車の商戦では鮫島の東京商事に負けちゃってたしね。

 

T 鮫島もいいキャラだったよね。ギラギラした感じで。一番のはまり役だったと思う。嫌なやつとして描かれてはいるんだけど、それでいてどこか憎めないところもあってね。

 

O 意外に恐妻家なんだよね。奥さんに小言を言われてるシーンもあったような気がする。

 

T 小説だとそんな鮫島の背景も細かく書かれているよ。商社だとやっぱり朝早くて夜遅いんだけど、それを玄関のドアを音を立てないように出入りしたりする描写もあった。とくに朝は奥さんが低血圧でヒステリックになっているから刺激しないように気をつけているらしかった。

 

O ドラマの中の小ずるいイメージとはだいぶ違うね。

 

T 小ずるく見えるところもあの人なりのやり方で結果を出そうとしてのことで、それはそれでがんばってるんだけどね。悪どいとは言っても、ものすごく人倫に反しているわけではないし、好敵手って感じかな。ただ、壹岐の行く手を阻むのが毎回東京商事の鮫島ってのは気になるけど(笑)。

 

O たしかに東京商事以外の会社が出てきたのはサルベスタン鉱区の落札のときぐらいで、それ以外はいつもライバルは東京商事しか出てこなかったね。

 

T それに同じ東京商事の中でもいろんな担当セクションがあるだろうに、それにも関わらず毎回鮫島が出てくるのは、もう壹岐の異動に合わせて鮫島をぶつけてきているとしか思えん(笑)。

 

To Be Continued...