ゴップ | 大塚角満オフィシャルブログ「大塚角満のブログ」Powered by Ameba

ゴップ

 勢いに乗ってトランプのことを書く。

 昨日のブログ で、聞きなれないトランプゲームのことを書いて投げっぱなしの状態にしてしまったが、今回はルール解説をしながらそのおもしろさを紹介したいと思う。まずは、究極のシンプルルールながら奥深い心理戦が楽しめる“ゴップ”というゲームについて。

 ゴップで使用するカードは、ダイヤ、スペード、クラブのそれぞれ13枚のカード。ジョーカーとハートは使わないので、合計39枚となる。カードの強さは、

K(13)→Q(12)→J(11)→10→9→・・・・・・3→2→A(1)

 こんな感じ。数が大きいほうが強い、ってのを覚えておいてください。

 プレイヤーはふたりで、それぞれスペードかクラブの13枚を手に持つ。これが手札だ。残ったダイヤの13枚はよくシャッフルし、裏向きの山札にして場の中央に。で、山札のいちばん上のカードは表にして場に広げる。こいつで準備完了となる。

 プレイヤーの目的は場に出されたダイヤの札を取ること。たったそれだけだ。場に出たダイヤのカードを見て、自分の手札から1枚を抜き取って場に裏にして出す。で、「いっせーのせ!」だか「ちっちーのち!」だか「なんじゃーら、な!」でも何でもいいから掛け声とともにカードを表にし、数字が大きいがほうがそのターンの勝者となってダイヤの札を取ることができるのである。もしも、ふたり揃って同じ札を出した場合は、勝負はつぎのターンに持ち越しになる。そこで勝つと、2勝負分のダイヤの札が手に入るというわけ。ちなみに、使った手札は表向きにして場に並べ、いつでも相手がチェックできるようにしておくことがキモ。点数は単純にダイヤの数字の合算で、合計46ポイント取ったプレイヤーが勝者となる。

 以上が、ゴップというゲームだ。ね、すごくシンプルでしょう。

 しかし、何度も言うようにゴップというゲームはシンプルゆえに奥深く、戦略を考えれば考えるほど思考のドツボにハマっていってエラいことになる。“相手よりも大きい札を出せば必ず勝てる”という唯一絶対のルールがとんでもない縛りにもなっていて、おもしろいったらないのだ。

 たとえば、山札から出た最初のダイヤがK(キング)だとする。ゴップにおける、最大の数字だ。これを取れれば、かなり有利にゲームを進められるのは間違いないところである。

 このKを絶対に取りたいと思ったら、迷うことなく手札から最強のKを出すところ。これならば少なくとも、負けることはない。しかし相手も同じことを考えている可能性が高いので、あえてここは“捨てターン”として、最弱のAを手札から切ってしまう……という戦略も生まれてくる。ここまでは、おそらく誰しもが考えるところだと思う。

 でも、ゴップでおもしろいのはじつはここから。さらに深く相手の心理を読もうとするところにこのゲームのカタルシスはある。

 対戦相手の行動や考え方をよく知っている間柄だと、その人の思考パターン……というか思考のプロセスもなんとなくわかるというもの。たとえばこの場面で、「ヤツの性格からして最初から勝負に出るとは思えない。なので確実に下りるはず」って確信できたならば、わざわざこっちがいちばん強いKを出すまでもないでしょう。相手が出すカードよりも1だけ大きいカードを出せばいいんだからね。つまり相手がAを出すと読み切れれば、2を出せばいいわけだ。

 しかしここで、相手も考えるはずだ。「この人はおそらく、ウチが下りる可能性まで考える。つまりAを出すことを想定して2で勝負に来るに違いない!と……。ここまで読めたとしたら、この人は“3”を出して2を凌駕しようとするだろう。しかしところがどっこい、俺はそれすら読んでいるのでやすやすと2なんて出さず、江野本が3を出すことを想定して“4”を出し、Kを手に入れる……。……まあ、こうやって考えていくとけっきょくふたりとも「……K出すしかねえな」ってことになって最強カードどうしがぶつかって勝負はつぎに持ち越しに……なんてことになるんだけどナ(笑)。あまりにも考えすぎて全13ターンを頭の中でシミュレーションしてしまい、脳内では1勝負終わってしまった……なんてこともしょっちゅうである。だから、俺たちふたりの勝負は異常に長くなるのだ。

 じつは例に出した最大数のKだとか、もっとも小さいAが場に出たときは比較的立ち回りやすい。勝負に出るにしろ下りるにしろ、わりとすんなり踏ん切りがつくので。困るのは中間ポイントの7~10あたりが場に出たときで、読み合いはさらに激しくなって時間が止まってしまうのである。勝負に出るにはいささか物足りず、かといって諦めるには数が大きすぎるから。ま、これらが出たときはハラを括って、じっくりと考えるようにしているけどね。こういうとき、バーはとてもいい場所で、好きなお酒を舐めるもいいし、カウンター越しにマスターと世間話をしてもいい。薄暗い間接照明もトランプの雰囲気にはピッタリなので、何気にバーこそ、トランプ遊びをする最高の場所なんじゃないかと思っていたりする。もちろん、トランプは場所を取るので、馴染みのところかつマスターのお許しが出るところじゃないとできないけどなー。

 さて、ゴップでの対戦成績は俺の2勝9敗という、一見すると「完膚なきまでに叩きのめされている」と思える結果になっている。が、結果ほどには互いの差はないんじゃないかと俺も江野本も思っているからおもしろい。その理由は、勝負が毎回1点を争う激戦で、天秤がちょっとでも傾けば勝敗はひっくり返っていた……と思えるものばかりだからだ。……まあそこで勝ちきれない俺は明らかに江野本よりも弱いってことになるのだろうが、つぎの勝負ではあっさりと俺が勝つような気がする。負けるような気もする。

 そうそう、いまもふたりのあいだで“伝説の勝負”と呼ばれている壮絶な一戦を行ったことがある。

 その勝負で俺は、勝敗が決するギリギリの45点までを先に江野本に取らせて、残りの46点をすべて自分でゲットする……という戦略を立てた。そして実際に江野本が45点を早々に取り、背水の陣作戦はスタート。こいつがものの見事にハマって、残った点数を俺は片っ端から取ってゆく。しかし、あと数手で勝ち……というところで俺はカードを出し間違え(5で勝てるところで8を出してしまったとか、そんなミス)、最後の1ターンで江野本に点を取られて計画は無残に瓦解してしまう。しかし負けはしたもののこの勝負で得た充実感と緊迫感は筆舌に尽くしがたいものがあり、江野本も「今回の対決、最初の1手から書きとめておけばよかった……」といまだに言うほどである。この勝負以来、俺たちはゴップの手をイチから書き留めた“ゴッ譜”なるものを作ろうかと本気で話し合っている。

 ……いやあ、こういうの書くの楽しいなー。でも、文字だけ読むとどうしてもややこしく思えてしまう……。これからは写真を載せたりしてわかりやすくしたいなと思っていたりします。

 でも書くのは非常に楽しいのでぜひシリーズ化して、いろんなトランプゲームやボードゲームを紹介しまくろう。そうしようそうしよう。

※前回の記事でマメーヌさんがコメントしてくれましたが、おっしゃる通りこのトランプの話こそが、ときたま『逆鱗日和』の欄外なんかに登場する“ごきぶり友の会”の発端なんです。これにまつわる話は、いろいろありますよ~w