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あ……

※このエッセイは2005年ごろに書かれたものです。


 ここのところずっと忙しくて、なかなか読書ができなかった。ふだんは電車に乗っているときに本を読んでいるのだが、その電車に乗ること自体が減っていて、まったく読めずにいたのである。しかし1週間ほど海外に行っていたことも影響して、どうにもこうにも日本の活字が読みたくて仕方なかった。なので寝ぼけマナコで、自室の片隅にある"未読"コーナーに行き、いちばん上に置いてあった文庫本を鞄に放り込んだ。重松清の『ナイフ』という文庫本だ。

 重松清は大好きな作家だ。"切なさ"を活字にすることにかけては、日本の作家では浅田次郎と重松清が双璧だと思う。日常の風景の切り取りかた、登場人物の心象映像の描きかたが本当にうまくて、この人の文章を読んでいると"活字だけが持っている力"でガツンと殴られたようか気持ちになる。ものすごく静かで透明だけど、心揺さぶられて仕方のない文章。重松清は本当に、日本語の名人だ。

 この『ナイフ』という短編小説集のテーマは"学校におけるいじめ"である。もう、切なさの極み。同じいじめをテーマにした重松清の傑作に『せっちゃん』というものがあるのだが(『ビタミンF』に収録)、『ナイフ』に入っている作品はどれも、『せっちゃん』に匹敵する作品揃いだった。

 『ナイフ』に収録されている最初の作品『ワニとハブとひょうたん池で』は、ある日突然、クラスメート全員からハブ(村八分のこと)られてしまった中学生の女の子の話だ。それまではクラスの人気者だったのに、突然始まってしまった村八分。自分のプライドが邪魔をして、泣くことも、抵抗することもできない主人公のミキ。いじめがエスカレートし始めたとき、ミキが住むマンションの近くにあるひょうたん池で、"ワニを見た"という噂が流れ始める。ミキは好奇の目にさらされるひょうたん池のワニに自分をダブらせて……。というストーリーだ。主人公ミキの心の痛みが、奔流のように流れ込んでくる。本当にすばらしい作品だ。しかし読んでいる途中から、(なんかおかしい……)と思い始めた。読み進むにつれて、その違和感は増していった。本当に、ステキな作品なのである。しかし、何かがおかしい。物語はクライマックス。純文学なのに、ハラハラドキドキしてしまう。そして最後のページに差し掛かったとき、俺は「はっ!」と声に出して叫んだ。違和感の理由を一気に理解したのだ。

 「これ、まえに1回読んだ本だわ……」