船は舞鶴の港に着き、
僕は車を動かした。


前の車は同乗者が居たのか、
人の乗降口の方に
向かったので、
僕は涼子達の車の
すぐ
後ろを走っていた。


少し走ると信号で、
涼子達の1BOXは
左のウィンカーを出していた。


僕は右に・・・。


信号待ちをしている時、
少し目を瞑りながら考えた。


さっきの船内での涼子の態度・・・。


まだ好きだろうと、
僕の気持ちを察して
解らせるつもり

だったのだろう・・・。


それに、
この駈落ちは
生半可な覚悟では
なさそうだ・・・。


涼子の背中に
寂しさを感じたのは

大切な物を

捨ててまで
貫きたい

愛の代償が
見えたのかも

知れない・・・


僕が4年間、
青春を謳歌した

北海道・・・。


僕の記憶の中で
涼子の占める割合は
一番多かった・・・。


その最後の日に
涼子に会えるのは、

奇跡だと思った・・・。


しかも涼子の
駈落ちをする日に・・・。


信号が青になり、
涼子達は左に曲がって行く。

僕は右に曲がり、
バックミラー越しに
2人の車を見ていた。


徐々に1BOXが
見えなくなっていった・・・。


前を見た時、

目の中に綺麗な
夕焼けが

飛び込んできた・・・。


まるで涼子に会った頃に
見た野幌の夕映えのような・・・。


涼子に感謝の気持ちが生まれた・・・。


「北海道の

4年間有難う・・・。」


独り言を言った時
自然と涙が出てきた。


終わり。

涼子達が乗り込んだ
大き目の1BOXの
リアガラスを見ると、


赤紫の布団袋
ヤカン
それに

ダンボール

積載されて

いるのが見えた・・・。

どう見ても不倫カップルの
旅行の荷物にしては
変な荷物だ・・・。


『これは、
僕の荷物よりも
多いぞ・・・。
引越し?』


そこで、我に返った!



駆け落ちだ!



不倫旅行なら、
まだ理解できた・・・
いや
不倫旅行だけでも
涼子に会った
偶然に驚いていたのだ!



それが
僕の旅立ちの日に
駆け落ちなんて・・・



この偶然は

何だ??


いろいろ考えた。


優しい中に凛とした母親
涼子はこの事を伝えて
出て来たのであろうか・・・


この人間関係を考えると
無理だろうな・・・・・


あの厳格な涼子の父親は
この事実を知ったら
どうするのだろうか・・・


涼子たちは
どんな覚悟で
この船に乗ったのだろう・・・・


凄く切ない
気持ちになった・・・。

舞鶴に着くとのアナウンスが入り、
僕は荷物を整理して

車に乗り込んだ。


船が港に着くまで
もう少し時間が有りそうだ。

ボーっと前を見ていた。


涼子の事を考えていた。


『僕が大学生活を終え、
北海道から旅立つ日の
フェリーの中で、

好きだった娘が
新しい恋人と
旅行に行くのを
目撃する・・・


しかも数十時間

同じ船内におり
しかも二人の
幸せ?を

見せ付けられたんだ・・・


ハッキリと
諦められる
キッカケになった

この偶然に感謝しなくちゃ
いけないのかも・・・』


僕の車の1台前は乗用車で、
その前に1BOXが停まっていた。


なんとなくその車を見つめていると、
その1BOXに
涼子達が
乗り込む姿が見えた。


「こんな車に
乗ってるんや・・・。

2人で
何処に行くんやろ・・・。」


そんな独り言を言って、
車を眺めると、

信じられない

光景が
目に

飛び込んできた。