【以下ニュースソース引用】

働く人の「適応障害」が急増 問題があるのは個人か職場か…20年前の状況と比較して分かったこと

配信

 

読売新聞(ヨミドクター)

産業医・夏目誠の「ストレスとの付き合い方」

 精神科産業医として45年以上のキャリアを持つ夏目誠さんが、これまで経験してきたケースを基に、ストレスへの気づきとさまざまな対処法を紹介します。

 

  【表】うつ病にならないためにやめておきたい七つのこと

 

イラスト:あかださきこ

 

 仕事や上司との関係で、うつうつとするとか、夜眠れないといった抑うつ症状を訴える人はいつの時代もいますが、精神科産業医を長くやっていて思うのは、診断名が時代と共に変わってきていることです。

 

近年は「適応障害」が急増しています。

 

以前は「うつ状態」の診断書を多く見かけました。

 

精神医療側の考え方だけではなく、原因が個人の資質にあると考えるのか、上司など職場にあるのか、という考え方の変化も関係しているように思えます。過去に経験した例を基に考えてみます。

プロジェクトの結果が出ずメンタル不調に

 1人目は、2004年に私がクリニックで診療をしていた時に経験したケースです。

 

38歳の大木太郎さん(仮名)は大手メーカー開発課長。

 

前年4月から開発本部に設置された「新製品開発プロジェクトチーム」サブリーダーに抜てきされました。

 

リーダーは本部長ですが、実質的には彼が責任者。開発部員だけではなく営業や技術、経理など寄せ集めのチームを率いる形になり、「1年で成果を出してほしい」との厳しい要請がありました。

 

  ところが10か月たっても結果が出ず、上司の励ましはプレッシャーになり、過労も重なりメンタル不調に。

 

彼と妻がクリニックを訪れました。

足がすくんで出社できない

大木さん: 出勤したくても、どうしても出勤できないんですよ。

 

なんとか出社しようと近くまで行って会社のビルが目に入ると、動悸(どうき)がして冷や汗が出て足がすくんでしまって。

 

 妻   : 最近、様子がおかしくて、寝言でも「頑張らなければ」「成果が見えない」なんて何度も言うんですよ。心配になって受診を勧めました。

 

 私   : サブリーダーになってからですか?

 

 大木さん: 8か月後くらいからです。

 

 私   : それで。

 

 大木さん: 1年で結果をと言われていて、期限は近づいてくるのに成果が形にならなくて……。

 

 私   : 眠れていますか?

 

 大木さん: 夜中に何度か目覚めてしまいます。

 

 私   : 本部長のサポートはいかがですか?

 

  大木さん: 「君に任せた」と言われるだけです。

「適応障害」の診断名を拒否

私   : 仕事が原因で抑うつ感が出ているので、「適応障害」でしょう。

 

休養を取り、薬を飲んでカウンセリングを受ければ良くなりますよ。

 

 大木さん: 適応障害って病名ですか?

 

 私   : 強い職場ストレスによって適応がうまくいかずメンタル不調に陥る病気です。

 

診断書を書きますから休んでください。

 

  大木さん: (強い口調で)先生、適応障害の診断書は困ります。

 

 私   : なぜでしょうか?

 

 大木さん: 僕に適応する力がないと思われるから。ちょっと。

 

 私   : それでは、症状を示す「うつ状態」にしておきます。

 

   大木さんは「うつ状態」の診断書を提出して、2か月の休養加療をしました。

 

復帰する際には、勤務先の産業医と話し合い、プロジェクトチームのサブリーダーを外れ、開発部次長として職場復帰し、現在も働いています。

診断は「適応障害」にしてほしい

 次は1年前の事例です。

 

29歳の加藤次郎さん(仮名)は、私が精神科産業医をしているメーカーの総務課社員で、2か月休養加療後の職場復帰のため、面談に訪れました。

 

 私   : 復帰の面談ですが、「適応障害」という診断名ですね。

 

  加藤さん: 主治医から「職場ストレスがあるから、産業医の先生に、処遇とか会社との調整をお願いしたら」とアドバイスを受けました。

 

 私   : 病名は主治医がつけたのですか?

 

 加藤さん: ネットで調べ、僕もそう思ったので、そのように書いてくださいと依頼しました。

 

 私   : どのようなストレスでしょうか?

 

  加藤さん: 相性が悪いと言うか、上司とうまくいかないんですね。

 

  私   : 難しい問題ですね。 

 

加藤さん: 上司はせっかちで、すぐに結果を求めるんですよ。

 

過程を見てほしいと思うんですが。私と違って体育会系ですから。

 

いろいろすれ違うところがあって。

 

 私   : 職場復帰の準備として、リハビリを受けましたか?

 

 加藤さん: 通勤訓練と軽作業としてパソコン入力をしています。

 

 私   : 職場にはあいさつに行きましたか?

 

 加藤さん: 行っていません。上司の顔を見たくないから。

 

 私   : リハビリの一環として行ってくださいね。 加藤さん: 復帰の条件なら行きます。

上司と合わず配置転換を希望

 復帰前、2回目の面談です。

 

 私   : 職場にあいさつに行きましたか?

 

 加藤さん: はい。これで復帰はOKですね。

 

 私   : はい。「職場復帰支援プログラム」を作成します。

 

 加藤さん: 職場に問題があるので、配置転換をお願いします。

 

 私   : 課長との関係だけが問題ですか、仕事自体はいかがですか?

 

  加藤さん: やはり課長ですね。

 

 私   : 上司や人事課長と相談してみます。

 

 加藤さん: 産業医の先生からも「職場ストレスがあるので、配慮をお願いしたい」という意見をお願いします。 

 

 私と上司の太田課長、人事課長の3者で面談を行いました。

 

 私   : 主治医からの診断書には「配置転換が望ましい」とあります。 

 

人事課長: 診断書に明記されているので配慮は必要ですね。 

 

太田課長: 私と合わないという理由での配置転換ですか……。

 

休職することになってしまったし、本人の希望ですから、そうしていただくのがいいのかもしれません。

 

 私   :職場が行う最大限の努力の一つとして配置転換があります。

 

原則1回限りとする企業も多いので、加藤さんには「今回のみです」と伝えます。

従業員の健康への配慮も企業の義務

 本人の要望を中心に対応した二つの事例を紹介しました。2

 

0年前には大木さんの例のように、職場には、「メンタル不調は個人の問題」と受け止める理解と言うかムードがあったように思います。

 

  その後、長時間労働や過労死自殺が問題になり、働きやすい職場を目指した働き方改革に関連する法整備が進み、パワハラ防止法や過労死等防止対策推進法もできました。

 

民事訴訟でも企業の従業員の健康への配慮が義務として認められるようになっています。

精神障害の労災認定が10年で7倍

 一方で、精神科や心療内科のクリニックも増加し、精神障害の労災認定件数は2002年度が100件に対して、2022年度では710件と20年で7倍以上に増加。

 

そうした時代の流れの中で、近年は、メンタル不調者が出ると、「職場に問題が多少なりともあれば、配慮すべきだ」とする考え方になりました。

 

そして精神科や心療内科では、抑うつ感の原因が仕事や職場にある「適応障害」という診断が増えているのだと思います。

夏目誠(なつめ・まこと)

夏目誠

 

 

 精神科医、大阪樟蔭女子大名誉教授。長年にわたって企業の産業医として従業員の健康相談や復職支援に取り組み、メンタルヘルスの向上に取り組んでいる。日本産業ストレス学会元理事長。著書に「中高年に効く! メンタル防衛術」「『診断書』を読み解く力をつけろ」「『スマイル仮面』症候群」など。新著は企業の人事や産業医向けの「職場不適応のサイン」ウェブ書籍「メンタル・キーワード療法~5分でできる簡易セラピー」。 「夏目誠の公式ホームページ」「精神科医マコマコちゃんねる - YouTube」

 

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