広島県産ワグナーの

メンテナンスが始まっています。

 

 

 

アクションは既にバラバラです。

 

 

調律カードの記録によると

このピアノが製造されたのは

1961年(昭和36年)だから

今から63年前ということになる。

 

63年前のピアノというと

今ひとつこう実感が湧かないものだが

例えば1961年の出来事というと、、

 

J.Fケネディがアメリカの大統領に43歳で就任し

「あなたが国のために何ができるかを問うてほしい」

と言い、

ガガーリンが人類で初めて宇宙へ行き

「地球は青かった」と言い、

心理学者のユングが死去し、

べルリンの壁が建設され、

日本では大鵬というお相撲さんが

史上最年少で横綱になった年、、

 

と知れば

そんな昔に作られたピアノだったんだ

ということが実感として少し迫ってくる。

 

このピアノに携わった職人たちは

上記の出来事を何らかの方法で

リアルタイムで目撃し

一喜一憂しながらこの楽器を作ったのだ。

 

そう考えるとこのワグナーピアノが

なんだかとてもすごい

歴史的価値がある楽器なのではないか、

そう思えてくるから不思議だ。

 

いや実際に歴史的価値がある楽器

と僕は思っているのですが。

 

 

63年間の埃が積もる象牙鍵盤下の世界。。

 

 

でどういうわけか

僕が偶然所有していた

広島ワグナーピアノのカタログには

当時の価格で23万円とある。

黒塗は1万円UPだから24万円だ。

 

現在の貨幣価値に換算すると

110万円を超えてくるようだ。

ピアノという楽器が

どれほど高価なモノだったかがわかる。

 

 

 

 

カタログをよく見ると

"レンナー"や"シュワンダー"

といった文字が見える。

 

いずれもドイツを代表する

アクションパーツメーカーだ。

シュワンダー社はもう現存していないが

レンナー社は現役バリバリの

一流老舗アクションメーカーです。

(注:現在はスタインウェイ社の一部となっています)

 

現存しないシュワンダー社の

パーツを使っているというのは

ある意味貴重なこととも言えます。

2年前に出会ったワグナー

アクション&ハンマーはレンナー製でした。

 

レンナーやシュワンダーなど

本場老舗アクションパーツの特徴は

もちろん高精度というのもそうですが、

とにかく"質"がいいということです。

 

モノがいい、

作りがいい、

というやつです。

オマケに値段もいい

ということです。。

 

使っている木材や

その加工処理がとてもよく

木の表面がめっちゃスベスベだったりします。

まったくザラついたかんじがないのです。

 

レンナーのアクションの時は、

気持ちがいいので僕はよく指の腹で

木の部分を摩ったりしてます^^;

 

あと木の質がいいからなのか、

フレンジなど小さなパーツでも

どこか心地いい

ほんの少しの重みを感じます。

 

ただこれは他のと比べて

重さを測っているわけではなく

気のせいかもしれませんが、

そんな風に感じることがあります。

 

 

写真だと分からないがレンナー製のフレンジは表面がスベスベ。

 

あとフレンジでいうと

センターピンを支えているクロスのバリが

ほとんどないことが多い。

 

これは手作業で一つずつ

カッターの刃で切断するのですが

本当に酷い仕上げのものが多く、

この事が原因でスティック(動かなくなる)

になる事例がいくつもあります。

 

面白いことに

古いアクションだと

仕上げがいい傾向が強い

ように感じる。

 

センターピンのカットの仕方も

じつにキレイ。

 

フレンジコードもすごく丈夫で

古くても切れていることが少ない。

 

他のアッセンブリも同じくサラサラ。

 

レンナー製のフレンジコードはあまり切れない。

 

 

重さでいうと

レンナーや欧州アクションの一部には

アクションレールの下側に

長い鉄板が取り付けられていることがある。

だからピアノ本体から持ち上げた時

他のアップライトのアクションと比べて

確実に重いんですアセアセ

 

でもこの重さのおかげで

ピアノ本体にがっちり食いつくというか、

安定することも確かです。

音響にも僅かにいい影響がある

という方もおられますが、

音に関しては実際のところ

厳密に比べたことがないので何とも言えません。

 

この黒い鉄板のおかげでじつに重いのです..

 

 

古い年代のレンナーアクションの

見た目の特徴でいうと、

アクションフレームに

ツルツルテカテカ加工が施されています。

 

アクションブラケットという

ピアノ本体に取り付けるポスト部分が

銀色のメッキ加工により輝いてます。

一般的なブラケットはザラついてます。

がしかしこの輝きは

経年によりすぐ曇ってしまいます。

だから僕はペダルのように必ず磨きます。

 

 

本当はテカテカツルツルなのにほとんどがこんな感じに曇ってます。

通常はこの様に立ってます。

磨いた後に磨く前(イースタイン)のと比べるとこんなかんじ。

 

 

ツルツルテカテカでいうと

ハンマーレールの表面がやはりこの時代のは

ツルツルテカテカ加工です。

木目調のハンマーレールもあります。

 

最近のレンナーも銀色なのですが

ここまでツルツルテカテカではありません。

カワイのような艶消しチックな銀色です。

ヤマハはお馴染み金色ですね。

 

左が磨いた後のワグナーで、右が磨く前イースタインのハンマーレール。

 

 

ワグナーのカタログには

ハンマーはシュワンダー製とありますが、

見るとしっかりレンナーでした。

 

Louis Renner Stuttgart

ルイス レンナー シュトゥットガルト

 

と刻印があります。

「シュトゥットガルト」は

レンナーが最初(1882年)に

会社を設立した場所の地名です。

 

後に工場の場所を変えているので

シュトゥットガルトの刻印がない

ハンマーもあります。

 

 

Louis Renner Stuttgartの刻印あり。
 

 

でどの部分がシュワンダー製なのかが

よくわからない。

通常レンナーのダンパーには

調整に便利な小さなビスが付いているのですが

それがない。

ダンパーフェルトの形状も

通常のレンナーとは少し違う。

 

逆に一般的にはクロスを使用する部分に

革製品が使われている。

よってもしかしたらダンパーは

シュワンダー製なのかもしれない。

しかし使われている木材や仕上げなどは

レンナー同様とてもいい。

 

一般的にこの部分はクロスが使われていることが多い。

最近のレンナーのダンパーはクロスもなく黒鉛のみだったりする。過去の仕事から。

 

 

ちなみにこの革ですが、

確認するとほとんどが磨耗してて

下地が出かかっている。

ここは強いテンションがかかる部分で、

厚みのある革のため中心部が極端に凹んでいる。

動く部分でもあるので雑音も発しそうな感じ。

 

僕の判断ではここは通常通り

クロスを使用するほうが

耐久性や雑音も抑えられると思う。

 

 

ダンパーロッドもツルツルテカテカにします。

キラキラ

 

 

 

というわけで、

広島県産ワグナーは

まだ始まったばかりです。。

 

 

 

 

今日も僕のブログを読んでくれてありがとうございましたm(__)m

 

OTO

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