吉本隆明『真贋』

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 最近、というかここ数年の傾向だが、無性に長老達の声を聞きたくなる事がある。長い歳月生きてきた人特有の知恵というか、生きる姿勢を学びたいと思う。

 いつからだろう。この国の社会が、年老いた人々をやっかい者扱いするようになったのは。今の社会福祉あり方を見て、よくそんな事を思う。


 どの家庭も核家族になりお年寄りと接する機会が極端に少なくなってしまって、彼らの本当の底力に触れる事が出来ない。そんな状況を考える度、意図して、あえて足を運んででも、彼らのナマの声を聞いた方がよいと思うようになった。生きる知恵や戦争体験、この国を支えてきた伝統文化などを、知識ではなく肌で知っている人達とお会いしたい。


 数年前、糸井重里さん主宰の『ほぼ日刊イトイ新聞』で、数名の長老達を招き話を聴くイベントが開催された。WEB上で拝聴したが、それぞれの分野で第一線で活躍されてきた方々の話は深みがあり面白かった。大好きな、吉本隆明さんや谷川俊太郎さんなんかもいらして嬉しかった。私にとって、存在してくださるだけで嬉しい、という方達だ。


 残念ながら私には、祖父母はいない。父方、母方ともにだ。だからよけい、憧れの気持ちを持つのかもしれない。ためになるから聞かねばという姿勢ではなく、お目にかかれて嬉しいです、という気持ちを大事にしたい。吉本さんや、谷川さんの言葉に触れる時はもちろん。身近にいるおじいちゃん、おばあちゃん達と会う時にも。


 お年を召した方って、往々にしてご自身の中で達観してしまっているせいか、なかなか自分の意見を言いたがらない。私が、私が、と押しつけがましくなることを嫌い、いやいやワシなんて、というスタンスで生きていらっしゃる。でも、このままでいたら、一生貴重な意見を聞けなくなってしまう。こんなに高齢者が多い国なのにだ。私たちは、何てもったいないことをしているんだろう。


 吉本隆明さんの『真贋』は、いままで漠然としか頭になくて、でもなんかもやもやしてた疑問について、優しいが、でもきっちりと意見を述べてくれている本だ。今まで読んできた本もそうだけど、読む度にほっと出来る。何かにつけて世知辛い、嫌な方向に傾きつつあるこの国だけど、こんな大人がいてくれて良かった。そう思い、嬉しくなる。


 彼のように、今まで感じてきた事を惜しげもなく伝えてくださる存在は貴重だ。我欲に走ってない分、どんどん鋭く、透明度の高い言葉になってきている。この本に限らず、吉本さんが書き続けてくださる限り、読みたいと思う。


   今日の一冊

吉本 隆明
真贋