俺の隣りに座ったひろむくんは
「俺、ビールにしよっかな」
ほとんど、ビールは飲まないのに
やっぱ、怒ってるよな…
正直に話せばよかったけど嫌な思いをさせたくなかったし、心配させるのも、やっぱりイヤだ。
だけど、スーツ着ちゃってるし、理由なんて
聞いてないし、ホントは実家に何しにいくのかも
知りたかったけど、聞けないよ。
重たいヤツって思われたくないし、余裕みせたい。
それじゃなくても、2歳の年齢差が俺にとっては重くのしかかっている。
ひろむくんは前に座ってる髪が長くて目の大きなキレイな人と
何か盛り上がってるし、
「スーツ姿、似合ってますね♡」
首をかしげて甘えた声で言うなんて反則だ。
そんなん、俺が言いたかったヤツだし!
「このネクタイ、エルメスですよね。もしかして、彼女のプレゼントとか?」
「いや、姉からの誕生日プレゼント」
「じゃあ、彼女いないですね?」
いやいや、ちょっと気分転換しないとムリだ
「ちょっと、トイレに行ってくるわ」
後藤に伝えて素早くこの場から逃げた。
やっぱり、女の子と楽しそうに話してる姿をみたら
あまりにもリアルで、俺との現実が全くの嘘に思えて、急に不安になった。
ホントの現実は、俺じゃなかったとか。
付き合ってるなんて、自分の都合の良い妄想かも?
ダメだ、ダメだ、思考がネガティブな方向になってる。
顔でも洗って気分を変えるか。
楽しい場なのに皆んなに迷惑かけてしまう…
顔を洗って…顔を手で叩いて気合いをいれた
鏡に映った自分は情けない顔をしている
「帰ったかと思った」
振り返ったら、ひろむくんが立っていた
もしかして、心配してくれた?
「か、帰るわけないだろ。ひろむくんが狙われてるのにさ」
「バカ、狙われているのは、理人だし」
俺?
いや、彼女いる?とか聞かれてたじゃないか
納得いかなそうな顔の俺にひろむくんはため息をついた
「自分に絡んでたのは、J女子大演劇部4年の芽以さん。
来週、ドラマのオーディションがあるから口説く練習させてほしいってだけ」
「・・・じゃあ、今日スーツなのは?」
「そ、それは・・・
何で、はっきり言ってくれないんだよ。
「りーくーん!!」
突然、イタリアンレストランに響く場違いな叫び声。
トイレから出ると、レストランの入り口から金髪に真っ赤なTシャツに革のジャケット姿の超ド派手の塊りがドンドン迫ってくる・・・
めちゃくちゃ、高いヒールなのに速い・・
絶対、やばいヤツだ・・・
恐怖に体が動かない!
「ひろむくん、逃げて!」
叫んだと同時に思いっきり塊りに抱きつかれた。
状況が分からないけど、ただ、苦しい・・・
た、助けて!
「りーくん!会いたかった!」
誰なんだよ。