魔女の如し おていと云う女 第十七回 | 美雪 伸

美雪 伸

「岩倉日誌」    
「江戸時代廓事情伝」 
「房洲の海に散る花」
「におい珍噺」
「死臭を嗅ぎ分ける変な奴」
「随筆」昭和、平成を生きる。
「遠州真吾のお色気旅」
「魔女の如し」おていと云う女

    魔女の如し
         おていと云う女

                  第十七回
                   旧住所 名古屋市瑞穂区船原町二丁目三番地
 帰宅したのは夜中1時だった、伸はもう死ぬかと思ったと母ちゃん
 

に報告「もう遅いから早く寝なさい」と寝間着を着せてくれる。間もなく

 

ぐっすり寝込んだ、かたはらで雪はブツブツ訳の分からん事をつぶやい

 

ていたと同時にその場で着替えなく大いびきで寝てしまった、美津は常

 

の出来事で驚きもせず寝顔を眺めた。つい先日も酔った勢いで現職の

 

刑事をぶんなぐって中署へ貰い下げに行ったばかりである。
 

 雪34才の若さで12人の弟子持ちになって人を使う「要料」を使う
 

までの気を使わないその場その場の判断が若さで職人も慕う、それが高
 

じて妻の美津の財源はいつも火の車、手放したくない高価な着物も箪笥
 

の中は空っぽの檀も出てきている状況下でもあった。
 

 一切雪には無言で支えた。弟子職人も内情が判っているから足しげく
 

ねだるのはと思いつつ日ごとやってくるのが現状の生活である。
 

 「銭置いてくか?」
 

 雪は帰り際柳橋に問いかけた
 

 「何云ってるの今日明日の付き合いじゃなし私もついこないだまでは
 

神田育ちの女じゃないか、欲しい時はねだるよ、雪さん今が大変なので
 

しょ、楽になったらで・・・」
 

 と云って伸の頭をなでて
 

 「可愛い子だね、随分待たせたね、又おいで、父ちゃんと一緒にだよ」
 

 と云いながら名残惜しく頭を幾つもなでていた。時はもう午前0時を
 

過ぎていて大須から日置まで歩くことにした。
 

 「伸よ、待たせたな、母ちゃんには飲んでたよと云うんだよいいかい」
 

 「ウン、いいよ」
 

 「電車も終わりだ、歩いていくか」
 

 よろけつつも西に向かって電車の軌道上を歩き出した伸は父ちゃんの
 

様子に気が気ではありません。すると
 

 「ガタン、ガタン」
 

 と架線の擦りあう音が坂上から途端に聞こえた
 

 「父ちゃん電車だ、危ないよ」
 

 と伸が叫ぶ、雪はヨロヨロで電車の来る方へよろつきながら向かう。
 

 「父ちゃん、ねー来るよ、電車が」
 

 父ちゃんの脇についているのでなお更気が気ではない。
 

 「なんだあの酔っ払いは、仕様がないな」
 

 と云いつつブレーキを思い切り踏んだ。
 

 「キキキツ」とブレーキの音、目の前5mくらいで停止した。 つづく
 

   この作品はフイクションです。