いつの間にかクラスの中心になってるやつってのは男女問わずいる。
俺の幼馴染の瑠香はまさにそういう人物だ。
誰かをバカにして自分の立ち位置をキープしたり、逆にいつも誰かの顔色をうかがって下手に出るわけでもなく、誰とでも対等に接することができる。
だから男女問わず人気が高い。あいつの周りに人がいない時なんて無いんじゃないかってくらいだ。
それにまあ、見た目も可愛いし頭も良くてスポーツもできるとあれば狙ってる男子も多いと聞くがことごとく玉砕してるって噂だ。一部では女子からも告られているとか・・・
幼馴染ってことで口添えしてくれって何度言われたことか。
とにかく俺の幼馴染は学校一の注目株ってところなのだ。

「さて、帰るか」
日が沈みかけている夕刻、サッカー部の部活を終えた俺は家路につく。
瑠香は部活をしていない。あれだけの身体能力だ、方々の運動部から勧誘を受けているのだがそれらを全て断ってさっさと帰っている。
「じゃーねー。宗ちゃーん!」
毎日俺にあいさつをしてあいつは学校を出ていくのだ。

俺は帰り道の途中にあるコンビニの前で足を止めた。
「そういや今日ジャンプの日だった」
そしてコンビニに入る前でとある姿を見かける。
それは、俺よりも大分小柄でボサッとしたロングの黒髪。常に何かに怯えている小動物のような動きをしていた。
俺はそいつに声を掛ける。
「よお。めずらしいな。こんなとこで会うなんて、瑠香」
「えっ、あ、あ、そ、宗ちゃん・・?」
そう、こいつが俺の幼馴染の瑠香である。
「珍しいな。何日ぶりだ?部屋から出てくるの」
「ちょ、ちょっと、い、いつもの、切らしちゃってて・・」
相変わらず人の目を見て話せないやつだ。俺もよく目つきが悪いって言われるけど、そこまで逸らすか?

俺の幼馴染の瑠香はまさにそういう人間だ。
昔から極度に臆病で人見知り。だから今も絶賛ひきこもり中なのだ。
でも、こいつには普通のやつには無いものがあった。
人形遣い。
代々こいつの家系は何かそういう魔術を継承してきた家柄みたいで、こいつはその家系上最高の才能を持っているとか。
だから瑠香は、自分の代わりに人形を学校に行かせている。
現代で言うところのリモートワーク・・・なのか?
こいつの技術はすごいらしく、普通の人形遣いの人形なら、よく見れば人形と人間は違うということははっきり分かるらしい。いや普通の人形遣いがそもそも分からないのだが。とにかく学校に来ている人形瑠香にはだれもそれが人形だということに気付いていない。そもそもこの世の中に人形遣いなんて存在知ってるやつの方が圧倒的に少ないだろう。皆、瑠香のことを普通の女子高生と思っている。
瑠香の家族もこの才能を喜んで、別に本体が学校に行かなくても何の問題も無いと思っている。なんて家だ。
そして先ほどから小さくなってそわそわしている目の前の幼馴染に声を掛ける。
「いや、いつも思ってるんだけど、学校じゃ俺と普通に話してんじゃん。俺だけじゃなくて他のやつらとも話せてんのに、何で生身だとこうなるんだよ?」
人形瑠香は、瑠香本人が操っている。つまり学校でのコミュニケーションは間違いなくこいつ本人がしているはずなのだが・・・
「だ、だ、だって、あ、あれは人形越しだから、普通にできるというか、わ、私もよく分かんないけど」
「それとな、せっかく外に出てくんなら少しは身だしなみも考えろよ。髪ボサボサだし、それ部屋着だろ?仮にも女子だろお前も」
学校の人形瑠香の方はいつもしっかり髪も服も乱れていない。この間の休日、人形瑠香が女友達も街中を歩いているところを見たが、その時はすごく可愛い服を着ていた。
「人形の方はあんなにオシャレできるのに」
「だ、だって、私があんな服、着ても、しょ、しょうがないし・・・」
人形だとあんなに積極的にいろいろ行動してんのに、こいつは自己評価が高いのか低いのか。
「じゃ、じゃあ、宗ちゃん、また、明日学校で」
「お、おう」
まあ、明日会うのは人形の方なのだが。
去っていく後ろ姿を見て、俺は後を追った。
「もう暗いからな。とりあえず送ってってやるよ」
「あ、ありがと・・・」
俺は知っている。こいつはいつも自分より他人のことを考える優しいやつだってこと。だから逆に人の感情に敏感になって臆病になってしまっていることを。
それを知っているからこそ、俺は昔からこいつのことが―――
特に会話も無く、二人並んで歩く。もし俺にも自分の代わりの人形がいたら、自分の想いを伝えることができるのだろうか。