今日の透析ちゃん 14 | orizarot

今日の透析ちゃん 14

大変長々と放置してしまってすみません。
ちゃんと生きています。
どこまで書いてたのかまるっきり忘れていたのは内緒だ。



シャント手術が終わったオレは、あとは退院を待つだけなのだが
そうなってくるといよいよ退院後の日常生活が現実味を帯びてくる。
今までは、全部人に任せておけばよかった。
しかも先生なり看護師さんなり、周りにいるのはみんなプロだしね。
でもこれからは自分の状況を自分で判断し、

それを維持しなくてはいけない。
もしオレが独り身だったら、未来に感じるのは希望ではなく

不安ばかりだっただろう。

この当時の、オレが人工透析に対して持っていた知識は
とにかく回数が大変/拘束時間が長い/針刺すのが痛い、この3つほど。
多分大多数の人が、この程度の知識しか持っていないだろう。
総じて思うのは、とにかく透析になんてなってしまった日には

普通の日常生活とはおさらばで、
もうホントに大変なんだぜ!御愁傷様!ということだね。
オレもここに来て一番最初に「透析です」と言われた時は、

めまいがして動けなくなったわけだから。
このまま漫画家という職業を続けていけるのだろうか。
でもサラリーマンとかの方が、逆に大変なのかな。

オレはどこまで「今までのオレ」をキープできるのか。
ーーーーーーーーー

手術担当医が、オレのシャントの状態を確かめて、言った。
「いいですね。ちょっと明日から使ってみましょう」

明日??
話では、手術から約1週間後から使用可能と聞いていましたけど?
透析は基本的に年配者がなるもので、

この「1週間」というのもその年代の回復力に基づいたものらしい。
オレは幸か不幸か若いので、早く事態が進んでいるようだ。

これまでも、シャントを太く丈夫にするための運動を

精力的に続けていた。
運動っつってもゴム人形を1日30回×3セットほど行うだけだが。
とにかく、シャントが早く使えるようになれば

それだけ早く退院できるってことだ!

同時に、不幸な知らせ。
例のカテーテルが使えなくなった。
傷口が化膿し始めたのだ。2週間程度でそうなると聞いていたので、

話の通りだな…
ちゃちゃっと抜かれた。
ということはだ、
もしこれで「やっぱシャントまだ早そうですねー」ということになれば
新規にカテーテルを埋めることになる。
おええー
あれは、あれはもうやりたくないよ!
明日は勝負です。

とはいえこれで、ついに普通に歩ける!
車椅子卒業だ!


「ではこれを、透析の2時間前に穿刺箇所に貼ってください」
オレは3×2センチほどのシールを2枚渡された。
これは「貼る麻酔」。
最近はこういう便利なものがあるのね。
ちょっと気持ちが和らぐ。
翌日の透析は9時なので、7時に起床とともに貼ることにした。

で、7時。
昨日先生にマジックで印を付けてもらっといたので、そこに貼る。
これ意外と剥がれやすい感じだ。ダメじゃん!笑
「貼ったんだから痛くないんだ!大丈夫だぜ!」
そう言い聞かせながら透析ルームへ。

「では行きますよ」

そう言って、先生が穿刺していく。
針はすっげー太い。2mm弱ほどか。
人生初の穿刺にござります。
でも麻酔してるので痛くないはずにござります。
刺さります。









も、




もんのすっごく
痛いにござります!!!!!!!!!!!




あれーーーー?
なんで?
痛くないんじゃないの?
なんかすっげ痛いんだけど!ドクター!

貼れば大丈夫というオレの願いは無惨に打ち砕かれ
穿刺は普通に痛かった。
今だから言えることだが、これは血管が慣れてないから。
刺していくと、だんだんその部分の血管が厚くなり、

「穿刺向き」の層になる。
ちなみに今は基本的には痛みは感じません。
先生の腕にもよりますけどね。

さて、アホほど痛かった最初の穿刺ですが
やはりまだ血管はそれほど成長しておらずに失敗。
さんざ痛い思いをして刺したあげくに抜いて笑、新たに刺し直し。
つまり、
1カ所は麻酔無しで刺すということですね。

まあでもぶっちゃけ貼ろうが貼るまいが変わらない痛さだった。
今後ずっとこうなのかと思うと気が重い。
刺し損なった箇所はどんどん青アザになってくるし。
ほろ苦いシャント透析デビューであった。
抜いた後もアザは取れなくて、

その日は1日腕が痛くて曲がらなかった。

これが、透析だというのか…!
オレは恐怖した。





透析をしながら、腎不全に関する教育ビデオを見た。
食事をどうするか、とか
水分の摂り方、とか
日常生活の注意点、とかそんな感じのものだ。

このビデオを見て思ったこと。

もちろん腎不全は軽いハンディではないし
気をつけるべきことはたくさんある。
でも、でもね、この手のビデオってのはどうしてこうなんだろうな、
基本的に暗いんだよね。
「こうしないとダメです。こうしなさい!みなさん大変でしょうけど、
まあ頑張ってください」的なノリに終始する。
そうじゃなくてさー。
「こうすれば大丈夫です。一見大変ですけど、慣れればどってことない
です。生きてるって素晴らしい!」って言ってほしいんだ。
それが気休めでもいいんだよ。
機械的に「すべきこと」を並べるんじゃなくて
そういうことの前に希望が欲しいんだオレたちは。

なぜならこれは、腎不全という病気は
治らない病気だからだ。

難しく言えば、進行性で不可逆性。
治らないという時点で、すでに未来はひとつ失われている。
生きてるだけで儲けモンなのは分かっているけど、
本人にしてみりゃ重要なのは生きることではなくて
どう生きるかなんだよ。

「水分を700mlに抑えないとダメです」
「水分は700ml、を意識しておくと透析が楽になります」
どっちが前向きな気持ちで聞くことができるだろう。

医者に言わせれば大事なのは確かな情報だろう。
でもこっちから言うと、情報よりまずイメージ。
オレらは本当に怖いんだよ。
腎不全になっちゃって、透析なんて背負っちゃって、
楽しく生きられるわけない!
そう思ってしまう。

身障者になっちゃったけど、でも大丈夫。
この、「でも大丈夫」が欲しい。
それがあれば、確かな情報なんていくらでもこっちから

能動的に調べに行く。
なぜなら、そうしてまで生きる理由があるからだ。

とにかくあのビデオは、
創作でメシを食う者として許せないところがあります笑



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つづく