私が、初めて紀州に行ったのは、26年前の事だ。
列車で、名古屋方面から、南に向かった。
松阪を過ぎて、連なる山々の景色を超え、海が見えた時、私は、その景色に感動した。
感動していた私に、向かいに座っていたおじさんが、話しかけてきた。
「あの山の向こうで、映画を撮ってるよ」
私は、嘘だと思った。
こんな陸の孤島のような所へ、沢山の機材を持って、山を越えてわざわざ映画を撮りに来ている訳がない。
おじさんは、さらに言う。
「三船敏郎も来ているよ」
私は、ほらふきおじさんと乗り合わせちゃったな、参ったな、と思っていた。
それから数年後、私は、全米を一世風靡したというテレビドラマを見た。
それは、「将軍」という、ウイリアム・アダムスをモデルにしたドラマで、リチャード・チェンバレンや、島田陽子が出演していた。
このドラマは、ゴールデングローブ賞を受賞し、最高視聴率は40パーセントを超えるなど、全米に一大ブームを巻き起こした作品で、私は楽しみに、テレビの前に座った。
そのドラマを見た時、私は、あっ、と思った。
この景色は、どこかで見た事がある・・・
これは、どう考えても、紀伊長島の景色だ。
そう、あの時、あの、辺境の地で、撮影されていたのは、このドラマだったのだ。