俳句・ショート-ショート    愛の鞭と化す物差し  | 俳句のとりな

俳句のとりな

俳句を愛するかたとともに

 

 

冬至にしては、あたたかな日であった。
里江は、仏壇の掃除をしていて、ふと、手をとめた。

 

祖母の声を聞いたような気がしたからだ。
小さな写真立ての中で、祖母が微笑んでいる。

 

祖母のたけが亡くなってから、そろそろ三年になる。
来春には里江の挙式が決まり、仏壇の中のたけにも、その旨、

報告したばかりだ。

 

里江の母親は、里江を産むと、直ぐに亡くなってしまったから、

里江は、ほとんど祖母の手で育てられた。

 

物心がついてからは、仏壇の掃除が里江の仕事となった。

 

はじめのうちは、踏み台を用意して、たけと一緒に掃除をして

いたが、そのうち里江一人に任せられるようになった。

 

とはいえ、たけは、どこかで見ており、うっかりと手を抜くと、里

江の手に、竹製の物差しが、ぴしりと飛んでくるのだった。

 

うらめしそうな顔をする幼い里江に、たけは、

 

「いいかげんなことをしたら、ご先祖様に申し訳ないですよ」

 

と、言ったものだ。

 

無事に済ませると、仏壇に供える汁粉などの相伴にあずかるこ

とができた。

 

その物差しが、たけの写真のそばに立てかけられている。

 

幼いころに、たけが厳しくあたってくれていなかったら、自分は、

横道にそれていたかもしれない。

 

たけは、なにごとにも手を抜いてはいけないということを教え

くれたのだ。

 

里江は、 物差しを手に取ると、柔らかな布で、丁寧に拭っていっ

た。


[今日の一句]


・独り言つおおははの背や冬至の日

 


[これから俳句を始めたいかたへ]


◎俳句生活で学んだことを、初心者向けに、131回に亘って、綴っ

ています。

 

「はじめまして」(第1回)
https://ameblo.jp/originalk/entry-12515820857.html