俳句・ショート-ショート       龍の目が動く    | 俳句のとりな

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俳句を愛するかたとともに

 

 

小学三年生の健太は、幼いころから気管支が弱く、冬場は、時折、

学校を休むことがあった。

 

その健太が、 師走になると楽しみにしていることがある。 庭先で、

もちつきをすることだった。

 

この日は、健太の家の庭に、近所の三家族が集まった。同じクラ

スの芳恵の家族も一緒であった。

 

芳恵は、健太が休んだときなど、給食のパンを届けてくれたりする。

 

それぞれの家が、前の日から水につけておいた、もち米をもち寄

て、蒸篭で蒸すこと、四十分ほど。

 

火加減と蒸し具合をみるのは、もっぱら、女たちだ。

 

この間に、男たちは、臼と杵を湯水で温めておく。蒸しあがったも

ち米を移したときに、冷めないようにするためであった。

 

蒸しあがると、臼に移され、いよいよ、もちつきの開始だった。

 

まずは、健太の父親と哲さんが二人一組となって、それぞれの杵

で、蒸した、もち米をこねる。


互いに杵をクロスさせるように動かし、丹念にこねてゆく。

 

消防団に所属している哲さんは、一人者で、年老いた母親と住ん

でいる。

 

しばらくすると、健太の父親は、芳恵の父親と交替するが、哲さん

は、そのままだ。

 

こね終えると、一息ついた後、本格的な、もちつきとなる。

 

圧巻は、哲さんが、自らの母親を相手に、もちをつくときだった。

 

もちを整えるタイミングと、杵を打ち下ろすタイミングとが絶妙で、諸

肌となった哲さんの肌は、次第に紅潮してゆく。

 

哲さんの肌には、龍の刺青が施されており、杵を振るうたびに、大き

な目が動いて、健太には、龍が生きているように見えた。

 

健太に杵を持たせて貰えるのは、もちに粒がなくなって、大方つき上

がってからだった。

 

つき上がると、もちとりこを敷いたテーブルに移し、全員で、千切り、

丸めていく。


丸められると同時に、餡こを入れたり、黄粉をまぶしたりした。

 

出来上がると、三家族は、縁側に腰掛けて、お茶をいただきながら、

わいわいがやがやと、出来たてのもちを頬張った。

 

まもなく、今年も終わる。

 


[今日の一句]


・もちつきの音にまぎるる第九かな

 


[これから俳句を始めたいかたへ]


◎俳句生活で学んだことを、初心者向けに、131回に亘って、綴って

います。

 

「はじめまして」(第1回)
https://ameblo.jp/originalk/entry-12515820857.html