事の顛末 | はなしの種

事の顛末


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この写真の真相。

機械に巻き込まれた左手薬指を引き抜いたとき、指先はなくなったと思った。
たまたま友人夫婦がいた。女は慌てながらも処置と病院へ電話。男はおろおろ。ケガ人が横目で見て、おろおろしてるなと思うほどのおろおろ。

そもそも、詰まって止まった機械を動かすために、ベルトを手で回した。
二つまずかった。

機械の電源を落とさなかった。電源は切るべきだった。

素手だった。革手袋をすべきだった。

夫婦に車で病院に連れて行ってもらった。
途中、貧血で霞んでいた目の前がはっきりとしてきた。とともに大丈夫だと思えた。
指先なくてもあんまり変わらないだろうと思えた。手がなかろうと、足がなかろうと楽しく過ごせると思った。

ちなみ、もし、生まれ変わりがあるとしたら次は障害をもって生まれてきたいと思っている。
障害者をチャレンジャーと言うこともある。と聞いてからそんなことを思うようになった。スポーツとか、ゲームは簡単なのからスタートする。できるようになったら難しくしてやる。そもそも人にはそういう欲求があると思う。

そういえば、大学の講義で嫌なことをやる効果みたいなことを聞いた。早く出社してトイレ掃除するとか。今の自分にはなにが一番嫌か考えた。母にメールすることだった。それから一年間、毎日母にメールを送った。これね、20歳くらいの自由を謳歌している男のとっては拷問ですよ。たいしたことないと思ったらやってみたらいいよ。

そういえば、どうしてここにいるかというと、私にとって、ここが一番きついから。

そんなわけで、診察を待つ間もまったく怖くなかった。
まあ、夫婦が横にいてくれたというのも大きい。ここから楽しかった。
男は肩を抱いてくれた。少し恥ずかしかったけど、少し安心した。女はお茶を飲ませてくれた。旦那の前で他の男の口にお茶を注ぎ込むのはどんな気持ちなのだろうか。男は話を聞いてくれた。病院であんなに楽しくしゃべるのは不謹慎なんだろうが、こういうときに出会いってあるんだよね。の話はおもしろかった。ここで、写真を撮ることが決定。女は待たされる私を想って怒りはじめた。ちょいとした抗議に行ってくれた。
あんなに楽しい診察待ちは今後もないでしょう。

午前中の最後に呼ばれた。
ここでまた自分のことを知る。私は痛みに強い。
指先をピンセットで触る。感覚があった。ここでくっつくだろうということがわかった。
傷口を洗うのは痛いから、麻酔を打つという。ただ、これがすごく痛いと言う。
あとから聞いたら、男性だと痛みで気絶する人もいるらしい。
でも、そんなに痛くなかった。
洗って、縫ってもらいながら、なにやったの。ということを聞かれた。
私のしていることを話した。医者が興味を持った。看護師も。
田中祭に誘った。来たいと言う。
医者は酒の話をしだした。面白い話だった。縫い終わっても、しゃべっていた。

金を借りて、支払って。自営業ってこういう補償ないね。国保ね。

好きなパンを買って、高校の時によく行っていた公園で食べた。

送ってもらうと、明日もきて作業手伝うと言う。こっちは今、チャレンジャーやってんだから断る。

夫婦が帰ってから、心的なストレスがあってたら、なるべく早く、同じ作業をして、安全だという認識に書き換えた方がPDになりにくいって話を思い出して、機械で同じ作業をした。大丈夫だった。

次の日、病院へ行くと、ずいぶんとすいている。昨日の看護師。
あっ、と言って近づいてきた。個人的な話で悪いんだけど…。なんだなんだ。
みんなに話したら食べてみたいって。10キロくらい買いたいんだけど……。
手、もう少し掛かるだろうから、今度きた時に。だって。
これで治療費がまかなえるだろうか。
消毒をしてもらいながら聞いてみて驚いた。3、4日でくっつくんだって。まずくっつく成分を出して、それが変化して。追加の分泌物を出して完了なんだって。抜歯は一週間くらい。むしろ、表面がジュクジュクしてるとこの方が治りが遅いって。人間すげぇな。

帰ってくると、玄関先に箱があって、その箱いっぱいに食べ物入ってた。男は楽しみにしていた釣りに行ったらしい。女はは食べ物を持ってきてくれたようだ。男の行動に納得いっていないよう。こっちとしてはどちらもありがたいんだが。
命を食べるんだから笑うなっていうのは世界をつまらなくする一番の方法だし、
片手が使えない男のために自分の時間を差し出せる人はいうまでもなくすばらしい。
こういう人を探そうと思う。

私は運がいい。
この夫婦がいる時にケガをした。私は基本的に信頼できる人にしか頼ることをしない。この夫婦になら任せる。数少ない人達。
指は残った。なくなっていても不思議はない。ほかにもなにか残った。自分のことも確認できた。あるうちは大事にする。

ひとりになって考えてみたら、この日はわりと楽しい日だったんですよ。不思議ですけどね。
今なら、自分がどうなってもわりと楽しく過ごせるんじゃないかな。っていう話でした。
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