生乳の取引については、おかしなことが幾つもありますが、今回は流通に焦点を絞って調べてみました。

 

以前、日本では美味しい牛乳が出回らない理由があるということを書きました(「美味しい牛乳が流通しない仕組みがある」 )が、その基になっているのが生乳の全量委託というものです。

 

生乳の流通については全量委託の原則というものがあり、生産者が生産した生乳の全量を指定生乳生産者団体(以下指定団体)に販売委託することになっています。そのため、生産した一部の生乳を指定団体に納入し、一部を直接乳業メーカーなどに納入するということはできません。

 

生乳の全量委託には例外があり、生産者が加工施設を保有して自ら牛乳や乳製品として販売することは認められています。しかし、その量は1トン/日が上限と極めて少量しか許されていません。これでは、製販一体にして付加価値を高めようとすると、全ての売り先を自ら開拓しなければならず、リスクが非常に高くなってしまいます。

 

全量委託の目的は、指定団体のシェアを高めて交渉力を強めるとともに、生乳の物流費を削減することにあります。

 

生産量が少ない生産者が個別に乳業メーカーに直接納入すると、効率が悪くなって物流費が増えてしまいます。しかし、生産量が多い生産者の場合は、生産者から乳業メーカーに直接納入した方が、中間コストも掛からないので物流費を抑えることができます。一律に指定団体を経由することが、必ずしも物流費を削減するわけではありません。

 

生乳というのは酪農家の腕に大きく左右され品質のバラつきが大きいのですが、指定団体を経由するときには、各酪農家の生乳が混ぜられてから乳業メーカーに納入されます。

 


また、下の図のようにバターやチーズの原料となる生乳の価格は、指定団体と乳業メーカーの間で決められます。そこで決定された生乳価格は乳業メーカーが支払い、それに加えて政府から補助金が交付されて生産者が受け取ることになります。

バターとチーズ向け生乳取引


政府から交付される補給金には交付対象数量というものが決まっており、平成26年度はバター・脱脂粉乳等向けが180万トン、チーズ向けは52万トンとなっています。これを超えた分については補給金が交付されないようになっています。

 

この補給金にはもうひとつ制限が設けられています。それは、生産者が指定団体に納入した場合についてだけ交付されることになっています。生産者が乳業メーカーに直接納入すると、補給金が生産者に交付されません

 

指定団体への全量委託の原則と、指定団体へ納入しないと補給金が交付されないことから、生産者は指定団体へ生産した生乳を全て納入せざるを得ない状況になっています。

 

では、指定団体とはどのような組織なのでしょうか?

 

指定団体になるには、地域内の生乳のシェアが5割以上を占めているか、5割以上見込めることが確実でなければなりません。したがって、地域の中には一つの団体しか指定団体は存在できません

 

現在、法律(加工原料乳生産者補給金等暫定措置法)に基づいて、法的に指定を受けているのは以下の10団体です。

 

・ホクレン農業協同組合連合会

・東北生乳販売農業協同組合連合会

・関東生乳販売農業協同組合連合会

・北陸酪農業協同組合連合会

・東海酪農業協同組合連合会

・近畿生乳販売農業協同組合連合会

・中国生乳販売農業協同組合連合会

・四国生乳販売農業協同組合連合会

・九州生乳販売農業協同組合連合会

・沖縄酪農農業協同組合


これら団体は、全てが農協が地域単位で形成している連合会です。生乳の流通のほとんどは農協が牛耳っているということになります。

 

実は、複数の酪農家が共同して乳業メーカーと価格を交渉することはカルテルと言われる行為で、独占禁止法に違反することになります。独占禁止法では、共同で生産したり販売したりすることで競争を制限することは原則禁止されています。しかし、小規模事業者等が共同組合を組織する場合には、 特例として独占禁止法の適用除外となっており、上記の連合会は特例として認められており独占禁止法の対象にはなっていません

 

安部政権が実施しようとしている農協改革の目玉の一つが、農協を独占禁止法の適用除外にせず、独占禁止法を適用させて公正な競争を行わせることにあります。

 

生乳に限らず、他の農作物についても農協を通すように農家に強要しています。農作物の一部を農協を通さずに販売すると、その農家から一切農作物を買わないという嫌がらせをやることがあります。

 

更に農家に対して、農協から割高の農薬・肥料や農器具等の燃料などを買うことも強いています。農協以外から買った方が安くなるのですが、農家が農協から買わなければ農作物を引き取らないということや、農機具などを購入する際の借金の取り立てを厳しくなどの嫌がらせをすることがあります。

 

農協という組織は組合員である農家の利益を保護するための組織として発足しましたが、実態は農家から搾取する団体となっている面が多々あります。

 

佐賀県知事選で農協改革を推進しようとしている自民党系候補者が敗れたことにより、農協改革にNOを突き付けたという報道がされています。

 

しかし、農協の組合員の中身をみると、実は農業が副業で片手間にやっている農家が半数以上を占めています(「日本の農業はほとんどは農業が副業?」 )。このような人達は、本来は不必要な農業関係の補助金に群がることによって収入を得ていることが多いので、これまでの農業政策が維持されることを望んでいます。そのような補助金目当ての農家は、当然農協改革には反対して既得権益を守ろうとします。

 

こういった背景を見ることなく、佐賀県で農協改革が支持されなかったと報じるのは、非常に誤解を与える報道だと思います。

 

本気になって農業に取り組んでいる農業従事者の多くは、農業に関するおかしな規制を撤廃して欲しいと考えています。生乳についての変な規制も、その中の一つではないでしょうか。


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