民主党の責任 | 大野もとひろオフィシャルブログ Powered by Ameba

民主党の責任

昨日、自民党、公明党および民主党の間で「確認書」なるものが署名され、子ども手当のあり方に加えて、民主党が掲げてきた高校授業料無償化、高速道路無料化3つの政策が見直しもしくは制度検証の対象となった。この機にあたり、自らの考えを記しておきたい。

振り返れば、国会会期を50日延長し、菅総理が退陣することと引き替えに、特例公債法案と共に上記の政策は野党の合意が得られると聞いていた。それにもかかわらず、現在の党執行部は70日間の延長にこだわり、結局、子供手当を含めた4つの政策が見直しの対象となったと理解している。本来、野党は菅総理で選挙をやらせれば勝てると考えているのだから、執行部の思い通り、「首さえ差し出せば」政策が通ると思い込むこと自体が間違いであり、稚拙な政権運営以外に評価する言葉はない。

正しいと思われる政策が政争の対象となり実現しないのは、国にとっての大きな損失である。本来、民主党政権の意味は、高度成長に代表されるような右肩上がりの経済成長を前提とし、大企業に資金を誘導すれば国民経済が豊かになる時代が終わり、縦割り行政と属議員によるしがらみの中での予算誘導合戦がひいては国の利益になる、というかつての構図が成立しなくなる中で、いかに社会を転換させるかにあったはずである。

一例として子ども関連について確認すれば、所得移転の一形態にして我が国が抱える構造的問題である少子化に対処する子ども手当は、「控除から手当へ」への転換の象徴であったはずだ。所得が少なく子育てに金がかかる世代にとり控除がもたらす恩恵は少なく、社会が子どもを育てるとの発想から、所帯ではなく子どもに手当てを支給することに意味があった。それは、貯蓄する余裕のない家庭から金が回ることをも意味した。高校授業料無償化にしても必要な政策で、国際的に見れば、高校や大学の授業料無償化を目指すとした国際人権条約の条項を承認していないのが、157の締約国中、日本を含む3カ国だけであることに見られるとおりである。

もちろん、政権交代の意味はあった。ばらまきと批判する自民党政権末期に、定額給付金等で約27兆円をばらまき、言わば国庫を空にして、国民不在のままに政権を放り投げたあの自民党政権を引きずり下ろした意味は大きい。神戸の大震災の際に空の官邸が電話連絡を受け、自衛隊への出動命令も遅れ、中越地震の際に二重負債に苦しむ方々が置き去りにされ、JCO臨界事故の際には退避すら勧告できなかった政権の下で、東日本大震災が発生したら、と考えると背筋が寒くなる。しがらみと縦割り行政の中で、いつかはやってくる原子力燃料の処理や廃炉といったコストを次の世代に先送りし、少子化問題に取り組まなかった責任も大きい。国際的比較で考えれば、相対的に高齢者対策が充実する一方で子どもへの支援が少ない我が国の状況は、政治に無関心で投票に行かない子育て世代に政権が目を向けなかったからと言えるのではないか。

しかしながら、これらの過去の政権のあり方への批判は、現在の民主党政権に国民が寄せた期待を裏切ることを正当化しない。問題の多い旧来の政治に終わりを告げることのみが民主党の役割ではなかったはずだ。約束した政策の実現のためのリーダーシップを欠き、国民の失望を招いたことは、与党の責任に他ならない。

私はこれまで、可能な限り政局から身を置き、政策に没頭することが自らの使命と考えてきた。自分の専門知識を活かし、外交・安全保障分野に特に力を入れ、たとえば日本の今後10年の安全をお預かりする防衛大綱の党の提言作成にあたっては、その原文のほとんどを起案させていただいた。そこでは、しがらみから離れることで「基盤的防衛力構想」からやっと脱却し、予算的制約と我が国を取り巻く状況に対応する「動的防衛力」構想が作られた。官僚依存で防衛省に起案させることを初めて止めたために防衛省所管のくびきから離れ、我が国の安全に正面から取り組み、指揮官たる総理にいかに情報を上げるかという観点から「官邸のインテリジェンス機能の強化」が盛り込めた。中身無しに「毅然たる態度を」と強調するだけの従来のパフォーマンス政治から脱却し、国民の命と安全に正面から向き合った政策を地道に作ることができたのは、政権交代のおかげだと考えている。

しかし、現在の民主党政権は、政権交代を国民の期待に結びつけることに失敗している。子ども手当のような社会構造を変化するための手段を党が提言しても、政権は実現の能力を欠いた。大震災優先のために予算の優先度が変わるのは当然であり、その中で子どもに対する手当を2.2兆円確保したのは一定の成果かもしれないが、多くの政策が実現しない一方で、この財政状況の下で三党協議と平行して野党から輸送業界への補助に関する法案が出されたことに見られるように、しがらみへの復帰の傾向すら出てきている。

私は可能な限り政局から距離を置いてきたが、それを改める時が来た。政策を進め、国を機能させるためには、現政権に速やかに退陣していただく他に選択肢はあるまい。前述の大綱のとりまとめの際にも、党内で合意した武器輸出に関する基準の提言(報道では、武器輸出三原則の見直しと言われていた)が社民党への配慮で暫時棚上げされてしまったが、執行部が社民党との連携で得たものはそんなに大きかったのだろうか。こうなれば、再び武器輸出基準の策定に向けた働きかけを強めるのみである。

党としては公約のエネルギー政策を実現し、検証対象となった政策を実効性ある形で実現させ、復興と共に我が国の転換を希望のもてる形で実現させるべきである。また、一議員として自らがなしえることは小さいが、現下の日本の抱える問題に対処すべく、早急に機能する政府を作り上げるため、がんばっていきたい。