イラク国会選挙投票日 | 大野もとひろオフィシャルブログ Powered by Ameba

イラク国会選挙投票日

以下は、昨日、研究者のブログに書いたものですが、知り合いから、こちらのブログにも載せないのは怠慢と叱られましたので、1日遅れましたが、ご参考まで。


イラクにおいて、7日、連邦議会(国会)選挙の投票が行われた。現時点では、投票率を含め選挙の結果は明らかになっていないが、現時点での気づきの点、以下の通り。なお、この分析の転載・引用にあたっては、必ず事前にご連絡を願いたい。


1)治安の悪化
総選挙が近づくにつれイラクの治安は悪化し、2月の治安状況は死者数ベースで1.5~2倍に悪化した。投票日直前のバアクーバにおける連続自爆テロ、投票日当日の中部スンニー派地域やバグダードにおける爆弾テロ、迫撃砲攻撃など、イラク軍が主体となって警備を実施している各地で、治安の悪化が目立っている。バグダード市の状況は、数年前の最悪の時期を想定させる事態になっている。
本来、米軍の撤退を前にして独立と安定を実感し、困難な宗派・民族対立を克服して本格政権を樹立し、復興への道のりを確認するはずであった選挙は、最近、とみに暗雲が立ち込める状況に見えてきた。
選挙に先立ち、イラクのアル=カーイダはスンニー派住民に対して「外出禁止令」として攻撃の警告を出した。バアクーバやサーマッラー等のスンニー派が主体なるもシーア派の混在する地域やナジャフのテロは、かつてイラクのアル=カーイダやスンニー派系抵抗勢力が実施していたような手口で、且つ宗派対立をあおるもののように見える。また、サドル勢力も活動を活発化させているようで、グリーンゾーンへの迫撃砲などは、やはりかつての手口をほうふつさせる。
現時点で、この状況がかつての最悪の時期の状況を復活させるかは不明ではあるが、今少しこの状況が継続するようであれば、7月に予定されている米軍攻撃部隊の撤退にも影響を与え、すなわち、米軍の世界戦略への影響も否定できない状況になるかもしれない。


2)選挙結果が意味するもの
選挙の結果は、少なくとも数日、長ければ1カ月以上経てから発表されることが予測されるが、下馬評では、マーリキー首相が率いる法治連合もしくはイラク・イスラーム最高評議会、ジャアファリー前首相、サドル勢力等が参加するイラク国民同盟のいずれかが第一党を占めるものの、単独過半数の確保は難しいとされている。アラーウィ元首相の率いる世俗色の強いイラク国民運動やクルド勢力、部族系政党との連立が模索されることになる趣である。
イラク独立選挙管理委員会は、旧バアス党との関係を理由として約500名の候補者の出馬資格を取り消したが、この提言を行った委員長がシーア派色の強いイラク国民同盟から出馬しているために、問題は政府に対する不信感にとどまらず、宗派対立を煽るものとなった。イラク国民運動のような世俗系の人気もかつてより高まってはいるものの、宗派対立の再燃も懸念される状況である。
イラクの選挙は米国の撤退を可能にし、情勢の安定化を期待させるものであるはずだったが、現状では、いくつもの要素が事態を複雑にしている。第一に、選挙情勢の流動化により、マーリキー首相はこれまでの路線の変更を余儀なくされた。一時期の独裁的手法は影をひそめたが、マーリキー首相は、ナショナリズムの高揚を煽る勢力に対抗するために、外国の石油分野への投資への批判を容認し、あるいは『人気取り』と批判されながらも、旧バアス党系軍人の復職を突如発表する等、場当たり的かじ取りに終始しており、かりにマーリキー首相続投となっても、その路線の行く末は不透明感が付きまとう。
第二に、イランの影響力が無視できない。米国撤退を前にしてイランは、仇敵イラクへの影響力を強める傾向にある。イランとしては、イラクやアフガニスタン情勢が沈静化すれば、イランを目の敵にする米国がイランに対する敵対姿勢を一層強化させると考えているようで、イラクの混乱は望ましいはずである。その一方で、イランが全面的にイラクを混乱させれば、イラク国内のイラン・シンパの変節を招きかねないため、イラクの混乱は一定のものにとどめる必要がある。さらに、イランにとってイラクが強固な形で復活することは脅威に他ならない。このためイランは、弱くまとまらないイラクの損害が望ましい。そこで一定の協力姿勢を見せながらも、マーリキー首相とサドル勢力が接近した際には圧力を行使させてその仲を裂き、単独過半数を獲得する政権が出ないように工作してきたとされている。このように考えると、米国撤退後のイラクは多々立ちに安定を意味していないようである。